第5話 完結

文字数 1,312文字

 その後、全員が元のスタジオに戻り、決勝戦が始まる。
 段田は少しでも爪痕を残そうと、ひな壇から大声でガヤを飛ばし続けた。
 ちなみに決勝戦は長さ二メートルのうどんを、真っ黒なつゆにつかった状態で、半分の一メートルまで食べるというものだった。

 競技が全て終わり、一メートル六センチで勝ち残った安藤アンがガッツポーズを上げる。賞金の書かれたパネルを前に、宮田はニヤリと口と歪めた。
「優勝は安藤アン!……ではありません」
 スタジオ中がざわめいた。安藤アンは狐につままれたような顔で、宮田に食ってかかった。
「待ってくださいよ。僕、勝ちましたよね」必死で唾を飛ばす安藤。彼は普段は大人しいのだが、なにせ五百万がかかっているのだから、さすがに目の色が違っている。「どうして優勝じゃないんですか!」と、さらに抗議を重ねた。
 しかし、宮田は諭すように言った。
「あのな、最初から言うてるやろ。この番組は『半分』がテーマなんや。そやから今回は半分だけ活躍した者が優勝なんや」
 それでも納得のいかない様子の安藤。
 低いトーンで、「それじゃあ、誰が優勝なんですか」と、自分が芸人であるのも忘れたかのように、リアルに顔をしかめている。
「決まっとるやないか。この中で一番中途半端な笑いを取ったヤツ」ひな壇に目を向けると、宮田は鋭く指をさした「段田フミヒロや!」。
「えっ、俺ですか」いきなり名前を呼ばれた段田は、半信半疑でステージに降りると、中央によろよろと歩み出る。
「段田、さすがやな。ワザと手を抜いてたんやろ。計算高いヤツやで」ニヤつきながら、宮田は段田の肩を叩いた。
「全力です全力。俺はいつも全力投球で仕事しています」段田は全力で否定し、「その結果がこのザマです」と、真顔で口をとがらせ、両方の手のひらを天に向けた。
「まあ優勝できたからええやないの」宮田は安藤の肩をやさしく叩く「安藤、ゴメンな」
 アシスタントのバニーガールが、ステージ奥に掲げられた賞金パネルを取り、段田へ手渡す。
 その時、段田は妙な違和感を憶えた。5,000,000という金額の部分が、なぜだか別の紙に書かれている。おそらくその下には別の数字が書かれていると思われた。
 すぐにピンときた。賞金は五百万円となっているが、実際はその半分の二百五十万円というのがオチなのだと。半分がテーマなのだから、それくらいのオチは充分ありえるだろう。
 気づかなかったふりをして、はしゃぎまわると、「ありがとうございます。五百万円で消火器買います」と、自虐ネタを放つ。
「何個買う気やねん。それに賞金は五百万円じゃ無いで。その半分や」
 ほらやっぱりそう来たか。二百五十万円でも大金であることは間違いない。貰えるだけでもありがたかった。
 パネルの数字の部分に手を掛けた宮田は、その紙を一気に引きはがした。
 すると、5,000,000が5,000に変わった。
「ゼロが半分で五千円や。はいコガネムシ、コガネムシ」
 恒例のギャグを決めると、宮田は唖然としている段田に高らかと五千円札を渡し、満足そうにカメラに向かって手を振りながら笑顔を振りまいた。
 愕然とした段田は、一言つぶやく。

「全然、半分じゃないじゃん」
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