第4話

文字数 1,399文字

「三回戦は、半分美味しいでしょう!」
 今度はコガネムシ宮田と勝ち残った四人が、隣のスタジオへ移動することになった。
 そこには様々な食材がテーブルの上に並べてある。ステージ奥には調理台が四つあり、包丁やフライパンなどの調理器具が揃えられていた。
「皆さんには、これらの材料を使って料理をしてもらいます。そして別室にいる一般人の二十名に食べてもらい、それぞれ『美味い』と『微妙』のどちらかに投票してもらいます。それぞれの評価がちょうど半分に近い、上位二人が勝ちぬけとなります」
「そんなこと意識して料理したこと無いですよ」
「それもみんな一緒や。普段通り作ればええだけや」
「つまり、半分の人たちだけが満足する料理を作れってことですよね」カンペの指示通り、安藤アンが要点をまとめる。
「そういう事や。安藤、飲み込みが早いのう」
「その別室にいる二十人ってどんな人たちなんですか?」カンペは出てなかったが、段田はアドリブを入れた。こういう細かな積み重ねが、宮田やスタッフたちに評価されるのだから、常に気を張っておかなければならない。
「そんなもんワシが知るかい。それにお前たちが知った所で、何の役にも立たんやろ」
 確かにその通りだ。ただでさえややこしい課題を突き付けられた上に、段田を始め、ここにいる面々に、性別や年齢などで味を変えるなどという腕は無いだろう――もっともプロの料理人にもそんな芸当が出来るかは疑問だが。
「あーあ、私なら得意だったのにな」元のスタジオにいる、先ほど落選したちぐタンがモニター越しにしゃべり出した。
「そら、どういう意味や」すぐさま宮田が反応した。
「コガネムシさん聞いてくださいよ。私のせっかくの手料理、彼ったら二回に一回しか褒めてくれないんですよ」
「お前、彼氏おるんかい!」
「間違えました。友達です、友達」周りからどっと笑いが巻き上がる。
 なんとも口の軽い女だ。このやり取りはおそらく編集でカットになるだろう。最近のアイドルはじつにあっけらかんと平気でものを言うことは、以前から感じていたが、まさかここまでとは。とても計算とは思えないので、きっと天然に違いない。マネージャーは苦労しているだろうなといらぬ心配をする傍ら、やっぱり彼氏がいたんだと、少し落ち込みもした。
 少し悩んだ末、段田はカレーライスを調理することに。これなら普通に作っても、それなりに美味しくなる。それを少しずつ調節して、味を落とすだけでいいと考えたからだ。

 調理が終わり、別室に運ばれると、いざ審査が始まる。
 モニターには審査員たちの食べる様子が映し出された。画面映えを意識してか、女子大生風の美女たちが最前列に並んでいた。しかし後列になると、ほとんど中年男性しか見えない。中には見慣れたスタッフもあった。
 事前に指示されていたのだろう。出された料理を、皆が皆、全くのノーリアクションで食べ進めていく。
 やがて全員が食べ終わったところで集計がなされ、結果が発表されると、そこに段田の名前は無かった。最後に塩を足したのが裏目に出たのだろう。
 がっくりと肩を落とし、敗者席となるひな壇に向かう段田の背中に、宮田が声を掛けた。
「惜しかったな。でもちょうど良かった。お前の家、今頃また燃えとるらしいで」
「燃えてないです!」段田は精一杯の声を張り上げた瞬間、大爆笑がおきた。
 悔しいかな、火事の一件以来、このやり取りが一番ウケる。
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