第2話 散る桜

文字数 1,031文字

高校になって知り合った美由紀と丈(じょう)と僕たちは入学式の日に仲良くなった。
2人と初めて話したのは屋上の桜の木の下だった。美由紀と丈は散り始めた桜の木の下にいた。
「日本と云えば桜だね。」
「散る桜残る桜も散る桜、ほんとうにとても素敵な花ね。」
僕は2人の間に入って思わず聞いてしまった。
「なんだ、それ?」
「良寛の辞世の句だよ。」
今度は一真が口をはさんだ。
こうして僕らは初めて交流を持った。
「私達、祖父母の祖国、さくらの咲く日本にあこがれてこの高校に来たのよ。3階の寮に住んでるの。」
そう言って笑った少女の笑顔がまぶしくて僕は思わず目をそらした。少女は中肉中背健康的で少し茶色味を帯びたサラサラの髪をポニーテールしている。卵型の顔に黒目がちの大きな瞳、少しぽってりとした小さな口元が愛らしい。どちらかといえば美少女、いや僕にとっては理想の美少女だ。
一緒にいた少年もこの句を知っていた。
「禅語ともいうらしいね。良寛は曹洞宗のお坊さんだったんだ。」
大柄でマッチョなスポーツマンタイプで第一印象はガサツな感じがしたが、禅を知ってるなんて意外だった。負けじと一真が続ける。
「桜は咲いた時から散り逝く運命なんだ。良寛はさくらと自分を重ねたのさ。死のうとしている時に今命がながらえたとしてもいつか死んでいく命に変わりはないと言い切った良寛ってすごいね。」
「一真って、ほんと理屈っぽい。」
さくらが口をとがらせてっそっぽを向いた。
「これは、死に際してブッタが」と一真がたたみかけるように言いかけたときだった
「はは、理屈じゃなくてほんとキレイだ。」と言いながら少年は頭をかいた。
「美しい桜の木の下で出会った僕たち、仲良くやろうぜ。俺は丈、これからよろしくな。」と一真に手を差し伸べた。
丈のおかげで、重くなり始めていたその場の空気が変わった。
和やかな雰囲気の中で僕は少女の名前が美由紀という事を知った。

授業は基本的にオンラインで受けているが、僕たちは最低週3回、10時から午後3時まで校内で過ごすことになっていた。校舎にいる間は体育、音楽、美術のほかに料理や工作を体験学習する。それまでも週に3日は校内で過ごすことになっていた。8歳までは週1回、それ以降は週2回午後2時半まで校舎にいることになっている。高校生になって今までより、クラスメートと過ごす時間は長くなったわけだ。
僕はもう少し美由紀と会う時間が欲しかったから、週5日学校に来ていたという100年以上前の時代がうらやましかった。
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