第9話  大人たちの秘密

文字数 1,986文字

「もうバレたことがあるのさ。ただ、7歳になったばかり、母が亡くなってすぐだったから、厳重注意だけで済んだ。」
「親父は黙認するどころか、協力的でね。人には絶対言わないことを約束に見てもかまわないと言うんだ。」
一真は飛びぬけて理解力や記憶力がすぐれていた。こういう男を選ばれた人間というのだろう。研究者である一真の父は彼の才能を伸ばしたいと思ったから彼の自由にさせているに違いない。小柄で色黒、やや痩せ気味の彼の目には全てが見抜けるような光があった。一真は続けた。
「今の日本の人口って約100万人だろう。この数字にからくりがあるんだ。」
「新もロボットの存在には感謝してるだろう?他にもアンドロイドやクローンがいると思わないか。」
「クローンは作られなくなったんじゃないか。アンドロイドも確か禁止されたと思っていたけどな。人道的な問題があったからな。」
「貴重な卵細胞を利用してクローンを作ることは確かに禁止になった。その代わり幹細胞を使う方法があるだろう。」
「ああ、幹細胞を使う方法が開発されたけれど、生まれるまでの成功率と成長過程での生存率が低すぎて作られなくなったんじゃなかったのかな。」
「成功率は格段に上がってるんだ。ただ、確かに今でも生存率は70%ほどらしい。」
「生存率70%だって?今でもクローンが作られているのか?」
「ああ、それに代理母を使わずに出産まで行えるような研究が進んでいる。
人工の代理母も幹細胞から作るらしい。しかも繰り返し使えるように設計したらしい。」
「繰り返し使える?」
「出産して半月ほどで次のクローンの胚を入れるんだ。ふざけた話だ。」
「小松左京氏だったかな。桃太郎の桃は未来から来たお尻型の保育器みたいなものだったっていうSFがあっただろう?あんな感じなのかな。」
「全く、グロテスクで悪趣味だ。もうすぐ実用化される。代理母を使わないから、大幅なコストカットができる。そして、クローンの量産に入るのさ。」
「アンドロイドも需要があるから、あちこちで使われているんだ。」
「でも、学習することで人格が生まれるから、危険視されて製造が禁止されたんだろう?」
「人間はまれにしか生まれてこないんだ。労働力が必要なのさ。今は定期的にリセットすることで人格が生まれることを阻止しているんだ。リセットに関わる部分は今のところオリジナルの人間がやっているらしい。」
「じゃあ、この間のクロークにいた3人はアンドロイドなのか。」
「ああ、間違いなくアンドロイドだ。支配人ってやつはもしかしたら人間かな。そうでなければクローンだろう。」
「クローンを作るのはすごくコストがかかってごく限られた富裕層だけしか出来なかった。
手先の器用な研究者が職人技のような技術を使って手づくりしていたんだからな。けれど、生まれてくるオリジナルの人間の数は減り続けている。クローンを量産するしか人類が生き残る方法は今のところないんだ。今までのように人と区別して扱うことは出来ないだろう。クローンは人間として扱われるべきだし、今後はそうなるらしい。」
一真の最期の言葉には哀れみがこもっていたようだ。
「もしかして、僕たち子供の中にもクローンやアンドロイドがいるのかな。」
「子供のアンドロイドはいない。成長していかないことが不自然だろう?」
「そうだよな。最低でも1~2年ごとにモデルチェンジしなければならないからな。」
「クローンはいるに違いない。ほら、時々転校していった子がいただろう。」
「ああ、結構いたな。突然転校していった子が多かったかな。」
「急に転校したのは、多分クローンだ。あの頃は致死率が高かった。僕らには転校したことにしたのさ。もしかしたら、臓器目当てに連れていかれた子もいるかもな。」
「僕の予想では人口は50万人ほどだと思う。特に日本ではうかうかしてると縄文時代と同じ人口になると大人たちは焦ってるんだ。」
一真の父は研究者だからより特殊なサイトにアクセス出来たとしても、アンドロイドやクローンの存在には驚かされた。
「大人たちはみんなそのことをしているのかな?」
「アンドロイドやクローンの存在は知っているさ。正確な人口や出生率はどうかな。パニックにならないように当局が隠している可能性もある。」
「隠せるものかな。」
「どうかな。とにかく、今日は驚いただろう。僕たちも何かしなければならないと思うんだ。3階の事や嵐の夜見たことについて慎重に調べる必要がありそうだ。」
「うん、どうしたらいいんだろうか。」
「まずは、今まで通り何も気づかなかったように無邪気に過ごしていることだ。やみくもに行動することだけはやめるべきだと思う。」
「ありがとう。教えてもらうばかりで気が引けるよ。僕にもできることがあるだろうか。」
「いや、僕も安心して話せる新がいてくれて助かった。誰かと話したかったんだ。一緒に考えていこう。」
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