第2話

文字数 2,371文字

そやけど、どうしよう?これからどうしよう。なんか生まれ変わったような気がするけど気のせいかな。あれ、なんやあいつら。喧嘩か・・いや、喧嘩とちゃうな。あのお兄ちゃん、チンピラにからまれとんねや。あっ、そんなに押したら、そのお兄ちゃん橋から落ちてまうで、あいつら無茶しよんな。だいたい一人に大勢で寄ってたかって卑怯やの。でも、なんで周りはみんな知らんぷりやねん。こんなに人がおんのに誰も止めに入らへんやんけ。どないなっとんねん。おいっ、お前ら、遠巻きに見てんとそのお兄ちゃん助けたれよ。くそっ、冷たい世の中やの・・でも、俺も間違いなくその冷たい一人や。今までこんな時、いつも見て見ぬふりしてきたもんな。どうしよう?また知らんぷりすんのか。嫌や、俺、生まれ変わりたい。前とは違う人生歩みたい。もうあの人生はうんざりや。どうせ、いっぺん死んでるんや!もう、怖いことなんもあらへん。そや、俺、ほんまに生まれ変わったんや。今まで人助けなんかした事なかったけど、今からしたらええ。正義の味方になんかなる気はないけど、ここで知らんぷりはでけん。勇気だせ一郎!

「あのぅ、お取り込み中すんません。そいつ俺の連れなんですけど、なんかやらかしたんでしょうか?」
「なにーっ!何やお前、こいつの連れか。ちょうどええ。このあほ、わしらに断りもせんと、此処で商売しとったんや。お前、こいつの連れなら、お前に落とし前つけてもらおか!」
「あっ、すんません、人違いでした、、」
「何やと、お前、わしらをなめてんのか!」
「い、いえ、やっぱり、そいつ僕の連れです、間違いありません!お、落とし前て、どっ、どうしたら、よろしいんでしょうか?」
「今日び、落とし前ゆうたら、銭に決まっとるやろボンクラ!」
「銭、ゆわれても、俺、フリーターでお金なんか持ってません、ほら、見てください。これが俺の財布です」
「何やお前、まあまあ持っとるやんけ。」
「へっ・・」
げっ、なんやこの金!10万以上入いっとるやんけ?なんで俺がこんなに金持っとんねん。朝、財布見た時3千円しかなかったはずや。なんでや?もしかして、これも?
「おうっ、お前、ええ連れ持ったのう。今日の所はこれで勘弁したるけど、今度また此処で商売しとったらこれぐらいじゃ済まんさんぞ、分かったのう!」
チンピラ達は肩を怒らせて去って行った。
「ふーっ、行きよった。大丈夫かいなお兄ちゃん?」
「うん」
「地回りに断りもなしに、こんな繁華街で勝手に商売するやなんて無茶やで」
「商売て、俺、ただ、絵描いてただけや」
「絵?お兄ちゃん、絵描きさんかいな?そう言われたら、なんやそんな感じやな。こんなとこで、絵なんて描いてて売れんの?」
「さっきの連中にもゆうたけど、これ売りもんちゃうねん」
「ふーん、女の絵か、綺麗やな・・よう見たらみんな同じ顔してるけど、誰この人?」
「これ、俺の彼女やねん。今、捜してるんや」
「捜してる?」
「うん、あっ、ごめん、助けてもろたのに、まだお礼ゆうてなかったな。さっきは、ほんま、ありがとう。俺、武田安弘」
安弘は右手を差し出した。
「どうも。俺、中島一郎。よろしく」
人捜しか?このお兄ちゃん、なんか訳ありっぽいな。それにしても、この顔どっかで見覚えがあるな。なんや、初めておうた気がせえへん。俺、いろんな所で働いて、ぎょうさん人におうてるから、このお兄ちゃんとも、どっかでおうたんやろか?思い出せんな・・

こうして俺は安弘と出会った。安弘は俺より6歳下の25歳で、如何にも真面目そうな好青年だった。俺の決死?の救出劇後、安弘はお礼がしたいと言って、俺を近くの飯屋に連れて行ってくれた。大阪名物のお好み焼きを食べながら、俺達は1時間ほど語り合った。その会話の中で、俺は安弘の恋人、美幸さんが行方不明である事を知った。3年前、安弘が22歳の時、当時20歳だった美幸さんは、なんの手懸かりもなしに突然消息を絶ったらしい。
「そおか、それで彼女の絵を配って捜してるんや」
「うん。そやねん」
こら大変やで、花の都、だい大阪、人口が1千万人に近い大都市で、何の手懸かりもなしに行方不明の恋人をたった一人で捜し出すやなんて、奇跡でも起きんかぎり無理や。奇跡か・・俺には起こったな。そうや、このお兄ちゃんにかて起きるかもしれん!乗りかかった船や、俺もその恋人捜しに、いっちょかまさしてもらおう。
「大丈夫や、彼女は必ず見つかる!」
「ありがとう。そう言うてくれる人が居ると心強いわ」
「これもなにかの縁や。俺も及ばずながら、力になるで」
「えっ?」
「今から、俺達、捜索コンビ組も!誤解せんとってや。俺は偽善でやるんやないで。俺自身の為にやるんや。誰の為でもない。俺自身の奇跡の為や。そやから頼む、手伝わして!この通りや」
俺は頭を下げて安弘にお願いした。
「でも」
「でもも、へちまもあるかいな。もう俺、後には退かんで」
「分かった。そしたら、遠慮せんと、一郎君の好意に甘えさしてもらう。ありがとう」
「こっちこそ、ありがとうやで、安弘」
「よっしゃ!そうと決まったら、さっそく捜索開始や。TVがええ。ほら、ようやってるやん、家族捜索番組。俺、ああいうの、なんか、やらせっぽくて、あんまり好きとちゃうけど、この際、好き嫌いはゆうとれん、マスメディアの力は計り知れんからな。TV局にはこのこと相談した事あんの?」
「いや、ない」
「ほしたら、一度行ってみよう。そや、太閤放送がええ。あそこの局、今、昼のワイドショーでその系統の番組やっとるはずや。今からダッシュで太閤放送行こ!」
なんや俺、なんか目に見えん力に突き動かされとる。自分が自分じゃないみたいや。いや、やっぱり、生まれ変わったんや。俺、死ぬ前はこんなにお喋りじゃなかったし、こんなに元気じゃなかった。別人や。俺、別人になったんや。

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登場人物紹介

中島一郎、31歳のフリーター。物語の主人公。人生に行き詰まり自殺を図るが、眩しい光によって命を救われる。その後、龍神を呼ぶ不思議な青年、安弘と出会い生まれ変わる。

武田安弘、25歳。路上で絵を描いている青年。行方不明の彼女を捜している。龍神を呼ぶ不思議な力が有り、一郎と行動を共にする。

美幸、23歳。安弘の彼女。手芸が趣味で、将来、雑貨店を開く夢を持つしっかり者。いつも優しく微笑んでいる美人。

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