第2話

文字数 1,091文字

 一年浪人して、大学生になれました。武蔵野経済大学という小さな大学ですが、偏差値は高めです。一浪して入れたのは、自分的には満足でした。周りは現役生の方が多かったですが、二浪以上の人もちらほらいましたし、他の大学から仮面浪人で入ってきた人もいました。それだけ価値があるのだ、と新入生合宿の時、納得し満足したのを覚えています。
「武蔵野」の名前通り、東京都ではありますが、その西の端、つまり田舎に大学はありました。「経済大学」という名前の通り、いわゆる文系でしたが文学部や外国語学部などの華がありませんでした。そうです、田舎の男臭いキャンパスライフです。東京に出て楽しく暮らそう、と夢見ていた僕の気持ちが沈んでしまったのも分かっていただけると思います。友人たちの多くもそれは同じでした。


 一年生の頃、第二外国語の選択によるクラス分けがありました。先ほどちょっと触れた新入生合宿も、そのクラス単位で動きました。僕が選択したのは中国語でした。受験生の頃、天安門事件とベルリンの壁崩壊という、大きく世界を動かした出来事が続きました。ですから中国語とドイツ語が人気でした。僕だけかもしれませんが、受験英語に苦手意識があった人は、中国語を選んだのだと思います。ドイツ語に比べると、やはり華やかさはありませんでした。元々少ない女子学生ですが、更に数えるほどしかクラスには女子がいなかったです。あとはフランス語とロシア語のクラスがありましたが、この二つはもっと目立たない人の集まりに見えました。つまり中国語クラスは、ヒエラルキー二番目。いや、フランス語の方が上流なイメージはありましたから、三番目だったでしょうか。

 といっても地方の男子校出身で、浪人時代も全寮制の予備校に閉じ込められていた僕ですから、きらびやかな女子大生の世界に飛び込んでうまく馴染めるはずがありません。ですからこれで良かったのです。不満と安堵が入り混じる、そんな大学生活の始まりでした。

 五月の連休が明けた頃だったと思います。そろそろアルバイトをしようと思いました。学費や生活費については仕送りをもらっていましたが、その他のお金まで親に頼るのはやはり心苦しい気がしていました。高校時代はアルバイト禁止で勉強することになっていましたが、だからといって勉強に集中した訳ではないことは、ご想像の通りです。それに大学の勉強は、そんなに詰め込むものではないと思いました。「経済大学」ですが、法学部があって、僕はそこに属していました。他の学部よりは暗記ものが多かったはずです。が、趣旨を理解すれば内容は頭に入ります。そこが受験勉強と違いました。


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