第3話 彼女の実家はマントル銭湯

文字数 1,415文字

私、田中幸夫(38)は隅田川沿岸の地上波TV局に勤務するたたき上げの制作部ディレクター、未だ独身でそろそろ身を固めたいのだが、実は社内に意中の人がいるので告白していいものかと思案中である。
○社内の備品倉庫

出納係の地面素子(24)が、朝からかいがいしく働いている。

(地面素子)あら、田中さん。久しぶり、お元気でした?
やあ、おはよう。

ところで、まだキミの名前をき、き、聞いてなかった。

な、な、な、なんていう名前なのかな?

意中の人を前に噛みまくる田中。
ちょうどお名刺作った所なんで、田中さんに一枚お渡ししちゃいます。
懐から、名刺を一枚田中に手渡す地面。

震える手で、それを受け取る田中。

「備品倉庫 出納係 地面素子」

...これは、ジヅラモトコさんと読めばいいのかな?


いいえ、ジメンソコといいます。

おかしいですか〜。

いや、あまりにダイレクトなんで驚いた。

ご実家は、ボーリング関係のお仕事ですか?

何か〜、平安時代は先祖は山師であちこちの山を掘っていたらしいけど〜、いまはマントル銭湯「マグマ溜まり」をやっています。
(マントル銭湯?あまり聞いた事がないな)

じ、じ、実は前からキミの事がす、す、す...

結婚を前提に...こ、こんばん一緒にすき焼き鍋はどう?

私も〜。田中さんは優しそうで好感をもってたんですけど〜、父が厳格な人なので、お付き合いする前に一度会っていただけますか?
(下町の銭湯の大将だ、打ち解ければ歓待してくれるだろう。

もしかして、吉原ソープの経営者かな?)

いいよ。お父さんにも一言挨拶しなきゃな。

じゃ、こっち来て。
倉庫の奥に誘なうソコ。
ん?倉庫の奥に何があるっていうんだい?
ソコが段ボールをうごかすと、そこにはポッカリと穴が。

漆黒の闇が下へ下へと続く。

じゃあ、一緒に行くのよ。そうね、地表から100km位の何処かよ。さあ❤️
田中の手を取り、一緒に穴に飛び降りるソコ。
あー、何もこんなアナログなエレベーターを使わなくても。

タクシーを使えば、いいじゃないか。

タクシーは必要ないわ。

このまま、自然落下にまかせるのよ。

ドスっ!

どすん!

はっ、ここは?
ワタシの実家よ。

地表から100km位のところよ。

お父さん登場。
マントル銭湯「マグマ溜まり」にようこそ。

わしが大将の地面底太郎だ。

仕事で汗かいたろう、ひと風呂浴びな。

ソコの話はそれからだ。

(何のコスプレかな。随分と変わったお父さんだ)

あ、ありがとうございます。

それでは、さっそく。

いつもなら、1000度くらいでマグマがグツグツいって、地底人のお客さんには大好評なんだが、あんたは地表人のヘタレだから900度くらいにうめてある。へっ。

おーい、三助。客人の背中を玄武岩で流してやりな。

(900度って、何の話だ?)
(三助)お客さん、さっ湯が冷めない内に早く。
田中の手を取り、湯船に向かう三助。

そこには、真っ赤に燃えるマグマが。

まっ待ってくれ。

これはお湯じゃない、本物のマグマが...

シノゴノ言ってるんじゃない。

これだから、地表の軟弱漢は始末に負えない。

それじゃあ、こうしてやるさね。

田中の右腕を取り、一本背負いで田中をマグマ湯船に投げ入れる三助。
ドボンっ!
あーっ、熱い!

身体が溶ける。

はっ、ここは?
社内の倉庫でしょ。

はいっ、これが田中さんが請求してたUSB 型の

Pcアタッチメント用の小型扇風機。

ブーン、ブーン♪
田中さん、いつも熱い熱いってボヤいていたから。

これなら、熱くないわよね。

そっ、そうだね。
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