第1話 彼女の家は地獄の三丁目

文字数 1,726文字

黒澤幸夫(37)は、都内の広告代理店に勤務する中間管理職、

毎日の厳しいビジネスシーンを生きている。

彼には、五年間付き合っている彼女がいる。小菅恵子(26)だ。

小菅は、黒澤の部下なのだが周囲はこのことに気付いていない。

○都内の広告代理店「電マ」オフィス 17:00
課長、お先に失礼します。

そんなに仕事にばっかり精を出してると本当に婚期を逃しますよ。

(黒澤)おお。ワークシェアリングの時代だ。もう、皆さんあがって下さい。

(余計なことは、言わなくていい)

課長っ、さようなら〜。また、明日。
続々と帰宅する部下たち。

オフィスに取り残される黒澤と小菅。

(小菅)ねえ、もう私達付き合って5年になるわ。皆に隠すのも限界だわ。
けなげな小菅恵子。
わかっているよ。

近々、ご両親や弟さんにも会って、君のことはきっちりとするつもりだ。

ところで、キミの実家は何処なんだい?

男らしく、責任をとろうとする黒澤。
...ふふふ...

地獄の三丁目よ。

ミステリアスな笑いを浮かべる恵子。
地獄の三丁目?

(そうか、KB 町三丁目の新宿育ちなんだな。隠さなくてもいいのに。

もう、家族になるんだから)

月末の決算の締めがあるから、小一時間いいかしら?

一緒に帰りましょうよ。

ああ、分かった。

ここで、待ってるよ。

ガタン、ゴトン!
自動販売機で、パンとコーヒーを買い、一息いれる黒澤。
ふー、毎日のビジネスシーンは厳しいな。

(小菅だけが、ココロの救いだ)

気が緩み、いつしか寝落ちする黒澤。
...zzzzz......
おいっ!起きろっ!
はっ、あなたはどなたですか?
わしは、小菅恵子の父親拳骨だ。

貴様、我家に何の用だ?

恵子のお父さん?これは、失礼致しました。

ワタシは、都内の広告代理店に勤務します黒澤幸夫と申します。

恵子さんの上司でして...


おまえが黒澤か..,

おまえの事は、恵子から常々聴いておる。

何でもやり手のビジネスマンだとか。

恐縮です。

差し支えなければ、お父様のご職業を伺ってもよろしいでしょうか?

それとも、もうリタイアされて年金暮らしなのでしょうか?

ワシか?ワシは地獄でオニをやっておる。
地獄でオニを?ははは。

(そうか、小菅の刑務官なんだな。ちょっと興味が湧いてきたな)

具体的には、どんな業務を?

性根の腐った連中のどタマを金棒でかち割り、脳みそを引きずりだして三途の河で洗濯する。

毎日が、この繰り返し。

脳みそを河で洗濯?ははは..,

(そうか、受刑者の再犯防止の為に再教育する教官なんだな。感心なお父さんだ)

あくまでポジティブに解釈する黒澤。
ところで、恵子さんのお母さんはご在宅でしょうか?
いま、厨房で料理をしておる。
ガタン!
恵子のお母さんが、料理を持って登場。
はーい、できたわよ。

コモドドラゴンの丸焼き。

冷めないうちに齧り付いて頂戴。

あんたが、黒澤さん?いい男じゃないの。

ははは、あまり見かけない料理ですけど、中南米の料理かな?
フグと一緒で毒があるけど、食べてみれば美味しいのよ。

さっ、あがって下さい。

そっ、それでは遠慮なく頂きます。

失礼ですが、お母さんは専業主婦?

それとも何か仕事をお持ちなんですか?

コモドドラゴン料理に箸を付ける黒澤。
ワタシは夜な夜な街に出ては、若い子の生き血を吸う。

ジュルジュル。

ははは、若い子の生き血を?

(日本赤十字の夜勤者なんだな。全く感心なお母さんだ)

あくまでポジティブに解釈し、懐から献血手帳を見せる黒澤。
お母さん、このコモドドラゴン料理は何か舌にピリッと来ますねえ。何のスパイスかな?
美味しい?

....ふふふ、人殺しのスパイスよ...

ふっふふふ。

(ん?死ぬ程美味しいということかな?)

はっはは、エスニックなご趣味なんですね。

ひとときの団欒を楽しむ黒澤。
ううっ、苦しいっ。
コモドドラゴンの丸焼きを食べて昏倒する黒澤。
(父親)あっ、こいつコモドドラゴンの毒にあたりやがった。
(母親)大丈夫、ワタシが頸動脈から血を200cc程すすってあげる。
..,ggggggg....ummmmh
起きて、起きて❤️
うん?ここは何処? 

地獄の三丁目?

何言ってるの。社のオフィスじゃない。

実家に電話したらね、今晩来ないかって。

ええっ?

今日は、仏滅だからやめておこう。

また、吉日に日を改めて。

そうっ。
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