第4話 彼女の実家は大気圏外
文字数 1,397文字
都内の凹凸印刷に勤務する係長、田中一郎(36)には意中の人がいる。これまで、手となり脚となり力になってくれた非常勤の星ヒカル(26)だ。
○都内の凹凸印刷、社内の作業場 pm9:00
ガタンっ、ゴトン。
(印刷機の音)
椅子にどっかと座り込む田中。
嬉々として、ポットのお湯を確認するヒカル。
(なんて、健気な。これまで、何度も彼女に励まされてきたことか。嫁にするならこんな女性に限る)
実はね、ぼくもそろそろ身を固めたいと思っているんだ。
前々から、君のことが...だから、正式にご両親にも挨拶に行かないとって、思っているんだよ。
(圏外?今時、携帯の電波が入らない地域なんて日本にあるのか?そうか...きっと日光鬼怒川の秘境か、四国の剣山の山奥などの平家の落人部落みたいな限界集落なんだな)
構わないさ。伺わせてもらう、だけどご両親にも御都合というものが...
天に向かって、祈りを捧げるヒカル。
ペットボトルのお茶をすする田中。
天空から降りる真っ白な光の柱。
上空に吸い込まれる二人。
あーっ、眩しい。
吸い込まれる。
怖がらないで、私と一緒に行くのよ。
田中が、船外を見てみると、漆黒の宇宙空間にポッカリと浮かぶ青い地球が。
ギギギっ。
馬鹿力で、田中を船外に放り出すアンドロイド1号。
そうれっと!
あっれー、そんな無体な。
係長っ、起きてください。
カップ焼きそばが延びちゃいますよ。
ソースを混ぜて、かき込む田中。
自嘲気味に笑う田中、微笑むヒカル。