第4話 彼女の実家は大気圏外

文字数 1,397文字

都内の凹凸印刷に勤務する係長、田中一郎(36)には意中の人がいる。これまで、手となり脚となり力になってくれた非常勤の星ヒカル(26)だ。
○都内の凹凸印刷、社内の作業場 pm9:00
ガタンっ、ゴトン。

(印刷機の音)

(田中)ふうっ、このコロナ禍だというのに...

我が社は、仕事だけはたんまりあるな。

さすがに疲れたよ。

椅子にどっかと座り込む田中。
(星)係長っ、もう帰りましょうよ。

もう、皆さん帰宅しましたよ。

星くんこそ、もう帰宅したら。

もう、社内にはボクと君ぐらいしかいないしさ。

そんなこと言われたら、チョット寂しいな。

一緒に帰ろうと思っていたのに。

あっ、そうだ。

係長が好きなカップ焼きそばお作りしましょうか。

あっ、そうだね腹が減ったね。

済まないが、頼もうかな。

はーい。
嬉々として、ポットのお湯を確認するヒカル。
(なんて、健気な。これまで、何度も彼女に励まされてきたことか。嫁にするならこんな女性に限る)

実はね、ぼくもそろそろ身を固めたいと思っているんだ。

前々から、君のことが...だから、正式にご両親にも挨拶に行かないとって、思っているんだよ。

でも〜、実家は圏外なんですよ。

いいんですか。

(圏外?今時、携帯の電波が入らない地域なんて日本にあるのか?そうか...きっと日光鬼怒川の秘境か、四国の剣山の山奥などの平家の落人部落みたいな限界集落なんだな)

構わないさ。伺わせてもらう、だけどご両親にも御都合というものが...

そう...じゃ、お父さんにテレパシーで聴いてみるわ。

お父さん、宇宙一厳格な人なの。

天に向かって、祈りを捧げるヒカル。
(テレパシ〜って、以心伝心で携帯もないのか?

もしかして、伊賀忍者の末裔か?)

ははは、キミも変わってるね。

ペットボトルのお茶をすする田中。
来たわっ。

お父さん、今迎えに行くって。

天空から降りる真っ白な光の柱。

上空に吸い込まれる二人。

あーっ、眩しい。

吸い込まれる。

怖がらないで、私と一緒に行くのよ。
はっ、ここは何処?

あなたは、誰?

ワシか?

ワシはヒカルの父、宙太郎さね。

そして、ここはヒカルの実家宇宙船。

それにしても、スペースウォーズゲームに出てくるようなお父さんだ。

はじめまして、田中一郎です。 

何か、夢でもみてるような心地です。

夢なもんか。船窓から外を見てみな。
田中が、船外を見てみると、漆黒の宇宙空間にポッカリと浮かぶ青い地球が。
あーっ、地球が青いって..,

バカっ、マジで大気圏外じゃないか。

よしてくれ、地球がいい。

ワタシと結婚するなら火星に来てもらうわよ。
ボクは、地球でヒカルさんと一緒になりたいんです。
ジェット機を飛ばして他人の国を爆撃する、そんな下等な星にヒカルをこれ以上置いておけないな。

おい、アンドロイド1号!

このヘタレを船外に放り出してやれ。

ギギギっ。
それじゃあ、客人の田中さん。

失礼して....あんたは、婿さん失格じゃて。

馬鹿力で、田中を船外に放り出すアンドロイド1号。
そうれっと!
あっれー、そんな無体な。
係長っ、起きてください。

カップ焼きそばが延びちゃいますよ。

(ふうっ、疲れて寝落ちしたな)

あ、ありがとう。

さっそく、頂くよ。

ソースを混ぜて、かき込む田中。
それにしても、係長はなんでいつもお夜食が、

カップ焼きそばUFOなんですか。

どこか、広い宇宙に憧れているんだろうね。

(ははは)

狭い印刷工場に毎日缶詰になってるから。

自嘲気味に笑う田中、微笑むヒカル。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色