5 『愛情の行方』

文字数 1,115文字

「平田の方が頼りになるぞ」
 別に嫌味のつもりでいったわけじゃない。
 恋愛に失敗している自分が恋愛相談にのるよりも、その方が良いと感じたからだ。
 だが今の自分は、ただ拗ねているように感じるのかも知れない。
「俺、ちょっとスーパー行って来るわ」
 しかし平田は空気を読んだらしい、イヤな方向に。
「おい! 平田」
 優人は慌てて声をかけるが、
「昼、パスタでいいよな」
 そう言うと、スマホと財布をポケットに突っ込み彼は出て行った。
「人の話を聞けよ。まったく」
 ヤレヤレとため息をつきながら肩を落とすと彼女がクスリと笑い、優人の隣に腰かける。

「いつもあんな、なの?」
と彼女。
「ご察しの通り」
 で?と本題を促す。聞いたところで内容は変わらないのに。
「終りなら終りで良いの。連絡が取れないのがイヤ」
 相手に浮気をされる理由について、指摘をしたこともある。
 しかし彼女はあえて相手を煽る様なことをするのだ。

【自分の中の優人を、超えろ】と。

 思い出は良い方に脳内で変換されていくものだ。
 初めのうちはそのままだが、段々悪いところがそぎ落とされて、良い部分が際立つ。
 その思い出に勝てと言われたところで、超えられるものなんていやしない。

 それでも彼女は、相手にそれを求める。
 何度も錯覚しそうになるが、彼女の心を占めているのは自分ではない。過去の思い出だ。
 今でも彼女を好きだとしても、仮にそれが本人であろうとも、思い出に勝つことなんてできはしない。
 そう簡単には。諦めてしまった自分には、なおのこと。

「俺のスマホ貸そうか?」
 知らない番号に出るとは思えないが、ただ話をして終わりたいと言うのなら逃げている方が長引く。
 どんな終りでも誠意があった方が、綺麗に思い出に変わるはずだ。
 少なくとも自分はそうしなかったから今、こうなっていると思っている。

 結愛はじっとこちらを見上げた。
「未練、あるのか?」
 あるなら、ここで連絡を取っても揉めるだけ。
「二か月だよ、さすがにないよ。それより、後から連絡来たら嫌だし」
 ”それは俺のことか?”と訊きたくなるのをぐっと抑え、スマホに番号を打たせた。
「いつも通り、兄のフリするから。いいよな?」
「うん」
 何度目だろうか、こんなことをするのは。
 いい加減、終わりにしなければならない。平田は、正しい。

──分かってる。
  わかってるんだよ。



「似てたの。最初は、似てると思った」
 相手との通話を終えた彼女は、優人の膝の上に座り胸に額をよせた。
 この距離感はオカシイ。しかし、毎度のことなのでいい加減なれた。
 異性というよりは親子のような接し方に感じ始めている。
 自分にあるのが愛情なのか庇護欲なのか、分からなくなり始めていた。
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