エピローグ

文字数 1,200文字

「どしたー? 優人」
 いつものお気に入りの場所で項垂れていると、紅茶のカップを持った平田がやってくる。
「結愛とは話にならない」
 愚痴のつもりでそういったのだが、
「そんなの、とうの昔に分かっているでしょうよ」
と言われてしまう。

「なにか言ってくれたみたいだけど、結愛の解釈はオカシイ」
 すると平田は優人の首の後ろ側のシャツの襟に指をひっかけ、肌を覗き込んだ。
「ちょ、何!」
 慌てて首を抑える優人。
「いや、キスマークついてる」
「つけられたんだよ」
 わかるだろ? と言うように涙目で平田を見上げると、何故か険しい顔をしている。

「話、したんだよな?」
と平田。
「しようとしたけど、聞いてくれない」
 平田はため息を一つつくと、
「俺が何か間違っていたのかな」
という。
 しかし何のことやらわからない。
「話を聞くべきは”ゆあち”の方じゃなくて、優人なのかもしれん」
「は?」
 優人の言い分を聞き入れないのは結愛。
 それなのに自分が悪いとでも言うのだろうか?

「ゆあちがやりたがる理由は理解しているんだろ?」
 もちろん優人も、と彼は問う。
「それは重々」
「でも、何故優人が拒むのかは知らない」
 平田はじっと優人の瞳を覗き込む。心の奥底を探るように。
「アセクシャルなわけでもなく、疲れているからとかでもない」
「それは違うけど」
「ゆあちにリードされるのが嫌なら、自分がリードすればいい」
 平田の言葉に優人は目を泳がせる。

「EDとかが理由ならわかるけれど、優人が拒む理由が俺にはいまいちわからない」
 平田の言葉に優人は切なげに平田を見つめると、
「俺はもっと、恋人らしいことがしたいんだよ。そんなじゃなくて」
と訴える。
「でも襲われたら感じるわけだろ?」
 ”それじゃあ、ゆあちを喜ばせてるだけじゃね?”と彼は言う。
「はあ?!
「まあ、ゆあちはお腐れ女子な上に優人にそういうことをするのが好きみたいだしねえ」
 ”そういうこと?”と聞き返す優人のシャツを指先でつまみ、わき腹を覗く彼。

「やめろって。なんなの!」
「ここにもキスマーク」
 指摘を受けて優人は唇を噛みしめる。
「つまり、ゆあちは拒む優人にそういうことをするのが快感ってこと」
「変態じゃないか」
 ”分かり切ったことでしょ?”と平田。
「まったく、優人は学ばないねえ。ゆあちはドSなんだよ」
「知ってます!」
「まあ。根気よく向きあったら?」
 ガックリと項垂れる優人。

 そこへ、
「ただいまー」
と帰宅する結愛。 
「優人♡」
 リビングに入るなり優人を見つけ抱き着く結愛に、
「少しは手加減してやらないと、そのうち嫌われるかもよ?」
と平田が助言した。
「なんのこと?」
「なんでもないよ、結愛」
 余計なこと言うなよと、優人が平田を睨みつけると彼は肩を竦める。

 世界で一番愛しい君は、まったく人の話を聞かない人だけれど。
 いつか伝わる日が来ることを願って、今日も言葉を紡ごう。
 その先に幸せがありますように。
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