2 『いやいやそんな手には』

文字数 1,103文字

「お盛んなことで」
 翌朝、キッチンで平田に言われタオルで髪を拭きながら脱衣所から出てきた優人は固まる。
「俺が隣の部屋なこと、忘れないでね」
「な……?!

 昨日(さくじつ)、結愛を家に泊めた。
 相変わらず友人の家を転々としている彼女を放っておけなかったから。
 優人と同じところで良いと言うので、一緒に部屋に行ったわけだが、何もそんなよろしくない関係になるつもりはなかったのだ。
 しかし部屋に招いたのは間違いであったと気づく。
『優人、結愛のこと好きだよね? つきあおう?』
としつこく迫られたのである。

『散々他の男とつきあって、ヤっちゃってるような子とは付き合えません』
と言うと、彼女は不思議そうに首を傾げて、
『結愛、優人以外としたことないよ?』
と言われたのだ。

──そんなの可愛いに決まってる。
 だが、自分の想い通りにするためならなんだってする奴だ。

『そんなの、確かめようがないだろ?』
と反論するも壁まで押しやられて、
『確かめてみればいいでしょ?』
と言われる。
 髪からはシャンプーの香りがし、優人のシャツを着ていたため胸元がちらりと見えた。
『ダメだから! そういうの』
 
──理性は美徳。俺は鉄壁の理性を持つ男。
 紳士こそ世界を救う。

 心の中で理性と戦うも、ずっと自分が想っていた相手の”あなただけ”に理性は崩壊しつつあった。

『優人のダメは、つきあってないからでしょ?』
と結愛。
『そうだけど……』
『じゃあ、つきあえば問題ない』
『大問題だあああ!』


「で、結局。落城したわけでしょ?」
と両手を合わせる平田。
 ”ご愁傷様です”といって、笑っている。
「お前、どっちの味方なんだよ」
「どっちって……優人は学ばないねえ」
 ”避妊はしろよ”と、優人の肩にポンっと手を置く彼。
「今まで、”ゆあち”の思い通りにならなかったことあったの?」
「ない」
「だからよ。押しに弱すぎんの。どうせゆあちの思い通りにしかならないんだから、いい加減諦めたらどうよ。今回は以前と違ってちゃんとお付き合いしているわけなんだし?」
 平田の言葉に敗北を感じつつも、
「また束縛されんのは無理」
と返せば、
「一緒に暮らしたらいいじゃない」
と言われる。

──結愛と一緒に暮らす?

「見えないから心配なんだろ? ゆあちは。だったら見えるところにいればいい」
 もっとも……と彼は続けた。
「優人と付き合ったら、誰でもああなるよ」
と。
「どういう意味だよ、それは」
「そのまんまの意味。次から次へと行く先々でフラグ立てるし、告白されたら誰とでも付き合うじゃない? フリーなら」
 ここ半年、誰とも付き合わなかったのは上手くいかないと思ったからだ。
「そういうとこよ?」

 平田は正しい。
 いつだって。
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