第6話 キレ芸
文字数 2,836文字
……うん。この人は相手にしない方がいい。
凛空、西村の二人の頭に浮かんだ答えは同じだった。
凛空と西村は匙を投げたが、才だけはなんとか、この女性とコミュニケーションを取ってみることにした。
正直、才もこの女性が苦手だった。
けれど、いちおう、この女性も〈脱出ゲーム〉に参加したプレイヤーの一人だ。才たちと別行動して得た情報は、攻略の役に立つかもしれないと思った。
凛空と西村は、なんでもいいから、明音を大人しくさせたかったのだろう。
それはありがたいが、ずっと黙っていた彼女が、まるで才を守るかのように喋り出したのは、ちょっと、危ない橋渡りだ。
単独行動していた明音はともかく、「実は、この二人は陰で結託しているのでは?」と凛空と西村に疑われ、メモ用紙を見せられない理由を追及されたらマズい。
凛空と西村が才の味方になってくれたのは嬉しい。
そう叫びたいが、言えない。メモ用紙を見られたくない本当の理由を隠すために、才は仲間たちにドン引きされる覚悟で嘘をつき続けなければいけなかった。
そんなにメモ用紙の話題を膨らまされたら、見せなくてはいけない流れができあがってしまうではないか。
凛空と西村はまだ才側にいるが、明音が一歩も退かずに喋り続けたら、面倒くさくなって思考を切り替えるかもしれない。「そんなに言うなら見せてあげたら?」などと周りが言い始めて、メモ用紙の中をすべて確認されたら、今よりもっと面倒な事態に発展する。
才は話の流れを不利な方向へもっていかれないよう、自身が台風の目となって場を滅茶苦茶にする作戦を実行した。
これだけ場が荒れれば、明音もこれ以上、メモ用紙に関して追求したくなくなるだろう。