才に訊きながら、明音はカロリーブロックの包み紙を破った。
カロリーブロックは明音が初めから所持していた物ではなく、凛空が分け与えた物だった。凛空は明音だけでなく、才、西村、紫織にも一本ずつ配っており、皆でそれを食べながら、情報交換会が行われた。
「東側には、食堂、トイレ、キッチン、物置がありました」
「食堂には特に何もありませんでした。トイレにも、特に何も……。キッチンも、そうですね。物置には、変な金貨が一枚ありました」
喋りながら、凛空はペットボトルを一本ずつ配った。所持していた食料や飲み物は、初めから皆に分け与える気でいたのだろう。凛空の行動には迷いが無かった。
「なんか、悪いね円谷君。こんなに色々貰っちゃって」
西村はタダで物を渡されることを申し訳なく感じているみたいだった。そう感じていても、しっかり凛空から物を受け取っているのは、このゲームでそれらがどれほど大事なのか理解しているからだろう。
「馬場さん。おれたちが調べた限りでは――もしかしたら、この洋館では電気も水道もガスも使えないようになっているのかもしれません。冷蔵庫の中も、空っぽでした……」
明音は、情報よりも、カロリーブロックを食べることの方が大事なように思えた。ここにいる五人の中で、明音が一番最初にカロリーブロックを完食していた。
明音は適当に答え、ペットボトルのキャップを取り外し、中に入っている液体を飲んだ。才もさっき一口飲んだが、中身はただの水だった。
「ふー、生き返るぅ……。あんた優しいね。ありがと」
凛空にちゃんと礼を言う明音。もしかすると、才たちに面倒くさく絡んできたのは、空腹や水分不足が原因だったのかもしれない。
「……てかさ、なんであんたたちはそんなに落ち着いていられるわけ? こんなわけのわからない場所に閉じ込められて、怖くなったりしないの?」
「おれは別に、怖くないですね。自分で参加を決めましたし、覚悟はできています」
「オレは正直、怖いって気持ちはありますよ。でも、一人じゃあないですからね。オレが見た限り、ここにいるみんな、良い人そうですし」
「ああ。確かに、それはあるね。ちゃんと話がわかる、良い人たちだ」
西村の今の発言は、初っ端に単独行動を始めた明音に対する皮肉にも聞こえるが、彼女は何も言い返さない。
あるいは言い返せないのか。そもそも皮肉として捉えていないのか、そこは謎だ。
「さっきからずーっと黙っているけれど、あんた、何考えてんの?」
「あんた、高校生だよね? なんであんたみたいな女の子が、こんなところにいるわけ?」
才も高校生だが、明音には紫織と違って見えるらしい。
明音にメモ用紙を見られそうになった時、紫織から助け舟を出してもらった恩を、才は今ここで返すことにした。
「あたしは、ちょっと、『ぶっ殺したい奴』がいて……。そいつをあたしの代わりに殺してもらうために、ゲームに参加した」
「あなたは、人を殺す目的で、ゲームに参加したのですか……」
「ま、まぁ、その……。目的は人それぞれっすからねー……。オレらがあれこれ言うことじゃあないっすよ、あはは……」
西村と凛空は明音の願いが理解できなくて、ひどく動揺していた。
「な、何よ? みんなして変な反応して……。あたし、おかしなこと言った?」
「い、いや……。それよりも、馬場さん。さっき、色々見つけたって言ってましたよね? もっと詳しく教えてもらえませんか?」
「上の階に変な人形があった。それから、真っ黒い絵がたくさん置かれた部屋とか、何も無い部屋とか……。鍵がかかってて開かない部屋とかもあった」
「直接見た方が早いでしょう。ついて来て、あたしが案内する。……てか、それが目的で、みんなを捜していたわけだし」
「お、オレも行きます! なんか、謎解き系の部屋があったってことですよね? みんなで知恵を出し合ったら、早く解けるかもしれないっすよ!」
「うん。あたし、そういうの苦手だから、みんなにお願いしたい」
明音は階段を上り始めた。
ついて行こうとした才の肩を、西村と凛空がそっと掴んだ。
「才君、油断するな……。あの女、何をするかわからないぞ」
「なるべく離れないように動こうよ。あの人が、いきなり襲いかかってきた時のために……」
人を殺すためにゲームに参加した、などと物騒な話をしたせいで、明音は、西村と凛空から警戒されてしまった。
とはいえ、明音から手を出してこない限り、西村と凛空も力づくで押さえ込むような真似はしないと思う。
「夕凪さんは、どうする? おれたちと一緒に来る?」
才が訊くと、紫織は食べかけのカロリーブロックを口に押し込み、歩き出した。
明音に急かされながら、才、凛空、西村、紫織の四人は階段を上った。この四人は、二階に行くのは初めてだった。明音が平然と歩き回っているので罠の類は無いと思うが、彼女はせっかちなので、きちんと調査していないのではないかと皆は若干の不安を抱えていた。
才たちは周囲を気にしながら階段をちんたら上り、二階に到着。
二階には、一階と同じように、東と西にドアがあった。
明音が才たちに来てほしい方は西側のようで、彼女はドアの前でしつこく手招きしていた。