第3話

文字数 3,762文字

(勇真)「 みてみて!とんぼ!! つかまえた!」


(風馬)
「 ─── . . ほんとだ、いっぱいいるな。勇真、その辺 石が多いからよく見ないとコケるぞ。」


目を離すと危なくつまずきそうだったので自然と手を繋ぐように風馬は促すが、


収穫した荷物が少し重たそうなのか重心が傾くたびに揺さぶり上げていく。

それをみた勇真は少しやりたげな目で


(勇真)「 ふうまにいちゃん、ゆうがもつ。」


(風馬)「 …? これ重たいぞ ほら、」


ダメとは決して言わず
ほとんど減らしてみるが、まだ幼い3歳児の勇真には当然持てるはずがなかった。


(勇真) 「 ─── …ッ!」(←本人は必死だけどやっとの思いで結局ひきずる)


(風馬) 「 勇真、ひきずってるぞ。(笑) …袋破いたらもう替えがないからそれは兄ちゃんが持つよ、な?」


(勇真)「 んんっ… 」


代わりに持とうと手を出しかけたが、
袋が気に入ってるのかどうしても離さない勇真。


「 ………。」


(風馬)
「 袋…? あぁ、なんだコレだったのか。わかった、分かった。いいよ、瓜は他の袋と一緒に入れてやるから。…ほら、」


結局、麻袋を空っぽにしてやると抱きしめたまま満足げに表情が喜んでいた勇真だったが、風馬はやれやれと片方の肩に担いでいた小豆の袋を重たそうにもう一度揺さぶった。


そして家に帰り着いた時、庭の縁側の方で風太が自分の服に何かをしている姿が見えた。



(風太)「 ── . . 」



(風馬)「ん?」

(勇真)「 ! ふうにぃ!! 」



(風太)「 ……、 勇真? !あっ、ダメッ!今針使ってるから。あぶないの! 」


(風馬)「 風太、先に帰ってたのか。…? 」



(勇真)
「 ふうにぃ、ふくやぶいた?ほら! 」


(風太)「 !? こらっ!勇真っ返せ!!あっ.. あにうえ・・、おかえりなさい。…………。」




(結構雑な縫い目)

「 ・・・・・。」


大体察しがついたのか一目見て風馬は呆れたように荷物を地面に下ろした。


(風馬)「 全く、しょうがないな。服ちょっと見せてみろ、……これか。木の枝に引っ掛けたな? 」


(勇真)「 ふくだいじなのにふうまにぃちゃんにおこられるんだー! 」


(風太)「 ちゃっ.. 、 ちゃんと直すから・・・出来るよ。」


(風馬)
「 素材があまり手に入らない布地だって貴重なんだから服は絶対に粗末にするなよ。」


「 後できれいに縫い直してやるから、分かったな?風太。」


(風太)
「 …ごめんなさい…。」


(勇真)「 ははうえのふく・・ いいな、にいちゃんばっかり」



(風太)「 ……。」


(勇真)
「 ? ふうにぃ?ねぇ、」
(顔を覗き込む)


(風馬)「 … だいぶ日も傾いたな、もうすぐ父上も帰ってくる。俺は風呂場の薪を割る仕事もまだあるから、風太、先に勇真と一緒に夕餉(ゆうげ)の野菜の準備ちゃんとやれるな? 」


(風太)
「 うん・・。勇真、行くよ おいで。」


(勇真)「 ふうにぃ? 」





(風馬)「 ………、」






“ ねぇ、風馬 “


(桜)「 これは、風太がいつか成人して大きくなったら着せるの。」


“ 藍染にはね、山では危険な蜂やヒルのような虫の他に蛇を寄せ付けない防虫効果があるの “


(桜)「 冬は温かい保温にも効くからあと少ししたらあの子も山での修練や狩りの仕方をこれから覚えていった時に将来、きっと必要になってくるわ。」


” いくつになってもあの子が安心して着られるように “



母上… 。


(勇真)「ねぇっ!怒ってる?」

(風太)
「怒ってない。」



(風馬)
「 ( あれから二年 経つのか・・ ) 」


「 ……。」



“ お前には苦労かけてしまう ”


(桜花)「 …あれは、桜は良い母親だった。(おさ)の仕事は父親としていられる時間はあまりに少ない・・。」

「 風太、特に勇真はまだ母恋しい時期に甘えられる誰かが必要だ。… お前がいてくれて助かっている風馬。」


(風馬)「 父上、」


(桜花)
「 桜の代わりにすまない… 二人を、家の事を頼む。」


風太や勇真も生まれて


“ あれ(桜)は、いつもお前の事を一番に気にかけていたからな。”







(風馬)「 ……。」









リ────…、リ───・・・。(夜更け)



(兄弟の部屋)


(風太)「 よいしょ…っと・・勇真、ふすまかけるからぼくのとなりにおいで。」


(勇真)「 ふうに、あそぼ?」(抱きつく)


(風太)「 ねるんだってば..。 」


(風馬)
「 腹掛けもちゃんとしてるな 」


(風太)「 うんっ、大丈夫。ほら勇真、みんなもうねちゃうよ?」


(勇真)「 ふうまにいちゃん、おやすみなさい。」


(風馬)「 おやすみ、勇真。(頭を撫でる) 灯り、消すぞ。」



フッ…
(蝋燭)「 ──…、」




リイィィィィン…、リイィィィ……。


草木も眠る丑の刻の時だった。
(※夜中の2時)



(風)「 ───..。」


ヒュル!
「カタカタ…ッ」(障子)




(寝静まる寝室)


(風太と勇真)
「 スゥ.. 、───────・・…
スゥ…。」


(風馬)「 …。」


外は冷たい風が吹き込んでいた。


(障子)
カタ. . 。



(勇真)「 …んん、ん・・。」


「んん、……。」

(寒いのか勇真はモゾモゾと落ち着かない様子)


(風太)
「 …? 勇真、?おしっこ?」


眠たげに振り返り、
そう思ったがどことなく違う様子。
何度も寝返りをうっていたので何となく部屋が冷え込むなと風太も感じていたのか、



ギュ…。

(風太)「 ほら、これで寒くないよ。」


(勇真)
「 スゥ…。────… 」


向かい合って抱くように寝てやると
勇真はようやく落ち着いた。


(風太)「 …… 」


ウトウトとふと半目に隣の視界に入った兄は二人に背中を向けて寝静まっていた。

でも、いつもと様子がおかしいような違和感があるような気がした。



・・ 何か声がする。


(風太)「 …、? 」



…………………。


静かな暗闇の中で風馬にわずかな異変が起きていた。



(風馬)
「 …────、……。」
(震える体)



頬を伝う冷や汗。
季節は秋の中旬に差し掛かる気温も低い中
とても暑さでかくような汗では無かった。


(風馬)「 …うっ!」








─────────────・・。



“ この子に罪はありませぬ…っ!!!”



(桜) 「 “ お願いです、これ以上の咎めは、この子は…… あなたの手で死ぬ気です..。親のしてきたことを誰より一番罪に感じていたのは紫苑、あなたなのよね… ” 」


“ どんな親でも、この子にとっては血の繋がった実の父親だったんです…。

(桜) “ 罰せられるべきはもう、せめてこの子だけは ”


“ どうか、刀をお納め下さい…!”



(その背景に誰かを躊躇いなく斬った桜花)



(先代長)

──── その命、

“ 与えた族印刀はかつて、朝廷支配から解放を求めた民のために風人の祖先がヤマト王権との戦いに振るってきた一族の誇りある証だ。”

「 各地の貴族達の後方には、国が民に圧力をかける朝廷の差し向けた横暴な豪族らによって東西諸国の侵攻が問題になっている。」

(先代長)
「 風人はその西を統括し平定に治める役目もある。風馬、」


“ 己の役目に疑問を持ってはならぬぞ ”


(風呂場の外の井戸で顔と腕を懸命に洗う風馬)


「バシャ!」


“ 手負いの傷とはまた違う…別の血(死者)の匂い ”


(風馬)
「 ………。(染み付いた人の血痕の匂いが消えない…。) 」



血は洗い流せても


人を殺めた(あや)匂いは…




(顔の水滴)
ポタ. . ポタ. . . 。


(風馬)「 …… 」




“ 抗えない血…。”



(???)
“ 紫苑。”



(桜花)

“ 風馬. . . あの子は、過去を清算した身とはいえ、【朝廷の人間の血を引いている者】 である以上 先代の監視下に置かれることになる。”


“ それだけ風人とヤマト王権の間で争った戦争の歴史は、血を引いているだけでも充分な争いの元になる。”

(桜花)
「( この条件を飲まねば二人を一緒に置けないとは…… ) 」


「 あの子に罪などないのに…っ 」






“ 何故ですか!? ”


(桜花)「 それは余りにも、風馬自身の未来を潰すもの言い、この子を道具扱いにするつもりですか!」

「 どんな血の出生であろうと深い事情を抱えようが迫害するような意思はたとえ先代でも…っ! 」


(桜花)「 何かが起きたら、あの子は朝廷側の人間として人質に。」


“ 族印刀などと、風馬の出生を否定するかの偽り役、過去の足かせに縛り付けた討伐の処理を…。“


(桜花)
「 貴方は… 本気でそんな事をこの子の前で言えるのですか!?」


(先代)「 お前のために言っている桜花。」


「 それにこれは諸国全体の存続にも大きな影響が及んでくる。お前は個人的な感情に流されて一人の人間の為に長たる者がまとめ役を預かるみなの命や身の上を危険に晒すつもりか。」


“ 本来、お前はあの子の父親ではない。風馬とて、異なるその意味を抱える父親である以上に長である事を自覚しろ。”


(先代)「 でなければ、お前に一族の長を背負う資格はない。」


(桜花)「 …っ!」


(白老)「 耐えよ、桜花。そなたの言い分も分かるが、先代の意見は最も一理あるんじゃ。」


「 風太が生まれたことにより、ようやく我ら一族の衰退した優れた力の保有者が二百年ぶりに風術を復活させたのだ、今度こそ慎重な守備に固めるのは当然のこと。何が起きてもワシらは風太を守らねばならん。」


「 それだけ両国の間に起きた思想の争いはそう簡単な問題では済まされないのだ。」

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