文字数 1,000文字

(まったく、どうしてこんなことに……)
~さかのぼること2日前~
ありがとうございましたー!
食べ終わった食器は、外に出しておいてくださいね。
あとで回収に来ますのでー。
……久しぶりにオーダーミスやっちゃったな。
この余ったオムライス……まあ、俺の昼飯にすればいっか。
さっさと店に戻ろう……って、なんだこの光は!
うわああああっっっっ!?
いててて……尻を打っちまった。

……どこだここは?
ゲームとかで見る、神殿のような……。

じーっ……
(な、なんだ? 変わった服装のチビっ子に見られているぞ?)
失礼ですが、どちらさまでしょうか?
出前のひなた屋ですけど……ここはどこですか?
いきなり光に包まれて……
でまえ……?
でまえ、でまえ……。
ああっ、なるほど!
そういうことでしたか!
わたしは大賢者パヤッタ。
この天空神殿エルヴァラより、世界の調停を為すものです。

あなたはわたしの力によって、この世界とは別の世界から転移してきたのです。
賢者……天空神殿……別の世界から転移……
よくわからないけど、キミが俺を呼んだんだな。
いったいなんのために?
それはですね……
……ごくり。
まちがいです! オーダーミスです!
はあ?
実はさきほど、悪魔を召喚する儀式を行っていたのですが……
「デーモン」と唱えようとしたところ、舌をかんで「でまえ」になってしまったようで。
どちらの神様のお導きか、運命のいたずらかは存じませんが、遠い異世界にいるあなたを呼び出してしまったようですね。

おもしろーい!
おもしろーい、じゃないよ!
俺は元の世界に戻れるのか!?
お任せください。
あなたの体に付着した光を頼りにすれば、どんなに遠い異世界であろうと瞬時にお返しすることができます。
だてに大賢者を名乗っていませんよ。

えっへん!
舌を噛んだくせに、そこでドヤ顔されてもなあ……。
まあ、戻れるならいいけど。
たいへんご迷惑をおかけいたしました。
それではさっそく……

……ん?
この匂いはなんでしょうか。
ああ、これは――。
~回想シーンおしまい~
(あそこでパヤッタに、余ったオムライスを食べさせてしまったのが失敗だった)
(現実世界に戻ったものの、翌日なぜか携帯電話にパヤッタから呼び出しが入って『オムライスくださーい!』ときたもんだ)
ぱくぱく、もぐもぐ……♡
(美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど、ここは異世界だ。お金にもならないし、トラブルに巻き込まれる前にも、きっぱり断っておかないとな)
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登場人物紹介

名前:日向屋迅一郎(ひなたや じんいちろう)

 東京下町にある大衆食堂『ひなたや』の四代目。
 日中はお店で働き、夕方からは定時制高校に通っている。

名前:パヤッタ

 異世界の賢者さま。
 その小さな体に、多くの召喚獣を封印している。

名前:ネエネエ

 パヤッタが暮らしている神殿の門番。
 面倒見がいいけど怒ると怖い。

名前:リャンリャン

 パヤッタが暮らしている神殿の門番。
 喧嘩っ早いけれどお姉ちゃんっ子。

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