5.

文字数 630文字

 あれから約四十年もの月日が流れた。
 私がなぜ今、子供の頃のことを思い出しているのかというと、警察官である私は、このローカルな町で起こった詐欺事件を担当することになった。
 そして、その被害者名簿の中に、同級生とおぼしき名前が意外とたくさんあることを知ったのだ。

 被害者は、分かっているだけでも五十名近くいる。
 犯人は市内の複数の中学校の卒業名簿などを元に、電話などで架空の投資話しを持ちかけたらしい。つまり、私達の名簿も使われたのだ。

 被害者名簿の中にある、この「ミミゲワシ タカオ」は、幼稚園で私に愛の告白をしてくれた子だ。珍しい苗字だから間違いない。出生年は、やはり自分と同じだ。
 被害額は二万円。二万だけで良かった…。
 逆三角形の輪郭の、優しい目をしたその子の顔が目に浮かぶ。小中学校も高校も別だったから、消息を知ったのは卒園以来だ。

 次に目に留まったのは「タカダ リン」という名前である。この人も同い年だ。
 リンという名前は、私達の年代では珍しい。もしかしたら、小学校で一緒だったミズサワ リンちゃんかもしれない。
 しっかりした子だったのに、こんなのに引っかかるなんて。被害額は二十万。

 こっちの「オザキ ケイイチ」は、小学校で一緒だったアイツだな。こいつが引っかかったのはなんとなく分かる。
 滑って転んで痛かったとか、何かあるといちいち大騒ぎして、みんなの注目が自分に集まるのを喜ぶような奴だった。
 被害額は五千円。意外と少ないな。少なくて良いけど。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み