第2話

文字数 542文字

 今日はずっと一緒にいられると思っていた。明日も休みだから、遥柾(はるまさ)の好きなビールもチーズも「タコわさ」も買ってあった。
 美空の口調にほんの少し、料理の分量表示でいったら一番少ない「少々」、人差し指と親指でつまんだくらいのがっかりが混ざった。

 「美空、映画に行きたいって言ってたから」

 「少々のがっかり」たったそれだけで遥柾は肩を固くするから、それ以上なにも言えなくなってしまう。
 確かに「映画を観にいかない?」と誘った。でも……。
 「デートって、その日一日、私にくれるってことじゃないの?」という言葉を、美空は吐息と一緒に吸い込んで、お腹の底に沈めると、

 「……うん、そっか。すぐに行くの? どこで飲むの? うちの近くだったら、泊まりに来てもいいよ」と言った。

 明るく、気にしてないよって聞こえるように。つかまっている腕が柔らかくなったので、美空はほっとする。遥柾は無口だ。こんなとき、付き合ってすぐの頃は、細かく問い詰めたものだけど、そうするとますます何も言わなくなってしまう。だから美空は遥柾のほんの少しの変化で、気持ちを推し量る技をいつの間にか身に付けてしまった。

 遥柾の唇が何か言いたそうに、開いた。けれど言葉は声になるまえに消えてしまい、ただ(うなず)いた。

 「じゃ、行くよ」

    
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