第1話イルミネーションの輝く街で

文字数 457文字

 白一色のクリスマスツリーが(まぶ)しくて、一瞬立ち止まった。

 「あ。ちょっと待って……」

 けれど、隣にいたはずの背中が遠ざかるのに気が付いて、美空(みそら)は慌てて小走りに追いかけた。

 「映画、面白かったね?」

 黒いダウンジャケットに追いついて、並んで歩く。暖かい建物から外へ出たので、空気が冷たい。バッグの中の手袋が頭をよぎった。けれど美空はコートの袖をそっと引っ張るだけにした。

 「うん。最後、かわいそうだったけどな」

 遥柾(はるまさ)はダウンコートのポケットの中に両手を突っ込んだまま、少し猫背で歩いていく。美空は肘のあたりをつかまえた。

 「ねえ、映画館を出たとき、クリスマスツリー、(まぶ)しくなかった? 暗闇から出てすぐ、キラキラだったから」

 「うーん、まあ」

 「夕飯、外で食べて行こうよ。まだ早いけど暗くなるの、早いし」

 さっき一緒に観た映画の話でもしよう、と美空は思いながら言った。
 
 「あ、ごめん。俺、これから職場の奴と飲みに行くから」

 「え? そうなの? 聞いてないけど」

 跳ねるように歩いていた足が、急に重たくなった。
    
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