第6話 フキラウ・ソング

文字数 1,099文字



フキラウ(地引き網漁)に行こうよ
フキフキフキフキフキフキラウ
みんな大好きフキラウ漁
塩漬けの魚にしてさ
(まつり)して宴会で食べよう

地引き網を海に投げると
アマアマ(ボラ)が
こっちへ寄ってくる
フキラウ漁に行こうよ
フキフキフキフキフキラウ

今日はフキラウ漁日和
ハワイ伝統の地引き網漁
ライエ湾に向かって
網を投げるよ

タワーマンションの4階テラスにある住人専用のプールには、スピーカーからのんびりしたハワイの歌が流れていた。住人は海外旅行で不在が多く、プールは私たち、私、潮見達郎と別れた妻の娘である香子(こうし)と、研究所の部下の長尾聡(ながおさとる)の3人の貸し切り状態だった。監視員はおらず、使用は自己責任となっていた。
私たちはマンションから外へほとんど出ず、家の中やこのプールで何もせずにダラダラ過ごしていた。
香子と聡はすっかり仲良くなり、聡も信じられない体験をした後に、それを忘れて12歳の少女とプールで水遊びにリラックスしていた。
「聡! ほら行ったわよ!」
香子はスイカの色と形をしたビーチボールを投げた。
聡は水族館のアザラシみたいにボールを上手に受け止めて、また香子に投げ返す。
空は雲がほんの少しだけある快晴に近い。私はちょっと泳いだ後、タオルを身体にかけてデッキチェアで二人の様子を眺めていた。
18歳の聡は、30前の私からすればやっぱり可愛い子供みたいなものだった。今は夏休み中だが、彼を育てた藤沢氏のように、彼をクレセント製薬の研究所でどんな仕事を与えて伸ばしてやれるだろう? と思いを巡らせた。社会の役に立ち、利益も出て、素直でシャイで頑固なところもある聡にぴったりなプロジェクトって何だろう? 聡だけではないが、うちの研究所に来た研究員たちには、それぞれの能力や感性に合った仕事をしてもらっている。聡にもきっと最適な仕事があるだろう…。
香子の後について、紺のシンプルな水着を着た聡が、水から上がってきた。その様子に、やはり惹かれる。私は家から持ってきたクーラーボックスから、オレンジ色でオレンジ味のアイスキャンディを香子に、水色のソーダキャンディを聡に渡した。私たち三人は水入らずで夏休みを過ごした。あまり外に出なかったので、二人の意向を聞いて今夜は車で夕食を食べに行くことに決めた。明日は香子も聡も楽しめそうなネイチャー系の海洋映画を見に行く。フィンランドとハワイとアラスカが舞台だ。平凡だが楽しい日々。

「アイア、イアマイ、アナカプアンナ」
(私はこの物語を語り終えました)
このフレーズが流れると、そのハワイの歌は間もなく終わると昔スチールギターが趣味の友人に教えてもらった。
プールサイドのスピーカーが夏の終わりを告げていた。
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