第5話

文字数 1,887文字

「ごめん、俺保健室で絆創膏もらってから教室戻るわ。先生に言っといてくれる?」

 後ろの静かそうな男の子に伝言を頼み、体育館からゾロゾロと教室へ向かう集団から離れた。高校生になって早3日。窓から見える桜は強風に負けて例年より早く散っていると学年主任が言っていた。桜って打たれ強いイメージがあったけど、思ってたより弱いんだなー。

 高校生活、初めての保健室は絆創膏をもらうという可愛らしい利用になった。学年集会の先生方の話がつまらなすぎて、逆剥けいじってたら血が出てしまった。職員玄関の横、早めに場所をしれたのはいいけど、頻繁に来ないようにはしたいな。他の学校はわからないけど、俺の高校は保健室の先生が2人居るらしい。

「しつれいしまーす、絆創膏くださーい」
「ちょっと待ってねー」

 保健室に入ると、長髪の先生が応対してくれた。もう1人は……ベッドの方に居るようだ。

「顔色よくなってきたわね」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいのよ、集会苦手なんだから仕方ないの」
「でも、慣れなきゃ、ですよね?」
「卒業までに少しずつね」

 カーテンからチラッと見えた顔。入学式に桜の下で友人と思わしき子たちの写真を撮ってあげていた子。誰もカメラを変わってあげなくて「あれっ?」って思ったから覚えてた。桜の下にいた時も白い子だなと思っていたけれど、今日は特に青白く感じた。集会の時に必ず貧血起こす子って居たよな……そういう感じかな……?

「こら、覗かないの」
「はーい。絆創膏、ありがとうございましたー」


 その後わかったことは彼女は桜という名前で隣のクラスだった。遠くから観察した印象としては、ワガママなお嬢さまたちに仕えるメイド。いじめられいる訳ではなさそうけど、これが綺麗な友人関係かと言われると怪しい。あと、長距離走とか心肺機能使う系や集会、テスト前後は保健室に行きがち。授業中にチラッと廊下を見ると歩いている姿を見ることが何度もあった。

「お前、やっぱ俺のクラスの地味子好きなの?」
「4月からずっと好きだわ! あと人の好きな相手を地味子って言うなー!」
「わりぃわりぃ、まぁクラスが同じ3月まで定期的に情報はあげますよ」
「情報料として部室掃除はしますのでー。あと、大手」
「はぁ!? お前そこはわざと負ける所だろう」
「勝負ごとと数学の小テストは手抜いちゃいけないって顧問言ってたじゃん」

 囲碁将棋部の部室はなぜか顧問が数学教室だからという理由で数学準備室があてがわれている。位置が絶妙に悪く風通しは最悪だが、生徒がほとんど近寄らないボイラー室などの傍だから少し騒いでも許される。あと、幽霊部員が多いので基本俺とあの日絆創膏の伝言を頼んだ同級生のコイツだけしか来ない。


 一目惚れではない。入学式の時から気になって、気づいたら好きだった。帰宅部、委員会にも所属しなかった彼女との接点はなかったから、ずっと遠くから見ているだけだった。顧問に勿体ないと言われつつ文系志望にしたし、選択科目も情報を得て一緒にしたのに2年も3年も同じクラスにならなかった。自分の運のなさとクラス分けを決める先生を恨んだ。あと、毎年要望を出したが数学準備室にクーラーは最後までつかなかったのも恨んでいる。

「お前、桜と一緒に推薦の面接受けるんだって? 絶対桜のストーカーになるなよ?」
「はいはい、うるさいでーす」
「まぁ、中学時代からずっとギャルたちのお世話でくっつき虫してるから、接点作りづらいよな。変に見つかって騒がれるのも嫌だし」
「お前が中学一緒って聞いた時ちょっと恨んだわー」
「うるせ。2年も3年も先生方もクラス分け下手だったな。ギャルたちは良い感じに3クラスくらいに分散させたけど、必ず一番ギャルが多いクラスに桜入れるし」
「世話しなきゃギャルが勉強ついてこれないとか変なこと考えてたんじゃないかなー。あと、大手」
「お前ぇ! 受験前最後の勝負も勝たせてくれないのかよ!?」
「勝負ごとと数学の小テストは手抜いちゃいけないって顧問言ってたじゃん」

 大学は指定校推薦枠が2枠。自分と桜がとった。面接前に呼吸を整えてる姿を見て、本当にこの子を近くで守りたいなと思った。面接前に何考えてんだろって我に返ったりもした。

 大学は同じ学部、同じキャンパスなのに、彼女の周りにはあのワガママなお嬢さまたちが周りにいた。桜がサポートした結果それなりに勉強はできるようになったようで一般入試で一緒の大学についてきた。正直想定外で、もういい加減にしてくれと思った。サークル入る様子はなく、単独行動している姿を全く見かけず、彼女への話しかけ方もわからなかった。
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