第1話
文字数 714文字
「藤さん、私あがりますね」
「おお、お疲れさん」
番台に居る店主の藤さんに声をかけ、私はバックヤードへ入る。残暑だし、今日は職場のお風呂じゃなくて家のシャワーでいいか。夜ごはんはプロテインですませてしまえ。いつも雑多な思考がまとまったタイミングで着替え終わるのでバックヤードから店内へ。
「あの、突然ごめんなさい」
外へ出るガラス戸に手をかけたタイミングで、声をかけられる。視線をやると、ボサボサの方にかかるくらいの長髪で、何色かよくわからないTシャツに毛玉が多い黒のズボンの若い男性。知り合いではなさそう。
「ずっと前から気になってました。良かったら今度デートしてもらえませんか?」
「……ええと、私?」
銭湯の前でナンパって……。手に持っているビニール袋から透ける物を見るに、うちのお客さんだし変なこと言えないよな。困惑してると、天の声のように藤さんが番台から声をかけてくる。
「桜ちゃん、常連の太陽くんだよ」
「い、いつもご利用ありがとうございます」
「こちらこそ、いつも掃除ありがとうございます」
掃除の私なんかの顔を覚えている人居るんだ。驚いている私にニコッと笑う太陽さんは、番台の藤さんに手を振る。さすが藤さん、常連さんの名前と顔をしっかり把握してるなぁなんてのんきにしていた私をよそに、太陽さんが口を開いた。
「藤さん! 今度桜さんとあそこの温泉街行ってもいいですかー?」
「おお、いいぞいいぞ! 桜ちゃん、勉強してこい。あそこの温泉街はなかなかだぞ」
私の意思は!? と思ったが、仕事の勉強になるなら何も言えない。流れに逆らえず太陽さんと連絡先を交換。今まで職場に対して不満を持ったことなんてなかったけれど、初めて藤さんを恨んだ。
「おお、お疲れさん」
番台に居る店主の藤さんに声をかけ、私はバックヤードへ入る。残暑だし、今日は職場のお風呂じゃなくて家のシャワーでいいか。夜ごはんはプロテインですませてしまえ。いつも雑多な思考がまとまったタイミングで着替え終わるのでバックヤードから店内へ。
「あの、突然ごめんなさい」
外へ出るガラス戸に手をかけたタイミングで、声をかけられる。視線をやると、ボサボサの方にかかるくらいの長髪で、何色かよくわからないTシャツに毛玉が多い黒のズボンの若い男性。知り合いではなさそう。
「ずっと前から気になってました。良かったら今度デートしてもらえませんか?」
「……ええと、私?」
銭湯の前でナンパって……。手に持っているビニール袋から透ける物を見るに、うちのお客さんだし変なこと言えないよな。困惑してると、天の声のように藤さんが番台から声をかけてくる。
「桜ちゃん、常連の太陽くんだよ」
「い、いつもご利用ありがとうございます」
「こちらこそ、いつも掃除ありがとうございます」
掃除の私なんかの顔を覚えている人居るんだ。驚いている私にニコッと笑う太陽さんは、番台の藤さんに手を振る。さすが藤さん、常連さんの名前と顔をしっかり把握してるなぁなんてのんきにしていた私をよそに、太陽さんが口を開いた。
「藤さん! 今度桜さんとあそこの温泉街行ってもいいですかー?」
「おお、いいぞいいぞ! 桜ちゃん、勉強してこい。あそこの温泉街はなかなかだぞ」
私の意思は!? と思ったが、仕事の勉強になるなら何も言えない。流れに逆らえず太陽さんと連絡先を交換。今まで職場に対して不満を持ったことなんてなかったけれど、初めて藤さんを恨んだ。