文字数 7,741文字

 着ました! と試着室から顔を出した使用人(メイド)に続いて、着付けを介助していた女中型自動人形(サーヴァント・オートマタ)が戻る。奥から引っ張り出してきた丸椅子に腰掛けて素描を眺めていたグウェンドリンが、わぁ、と目を輝かせた。
「可愛い! よく似合ってるよ、ボニー」
「有難うございます、先生」
 むふーん、と嬉しそうににんまり笑って、使用人はくるりと奇麗に回ってみせる。ふわりと拡がるスカートからペティコートが覗き、たっぷりとした布が踊った。
 基本色は、大家婦人がオリーブグリーンを選んだことから、モスグリーンにしてみた。首元は折り返しの詰め立て襟でオリーブグリーンのパイピング。胸元の切り返しから少し濃い色へ変わり、ぴったりと身体に沿うように仕立てられている。
 そこから繋がるスカートは慎ましく膨らませたブルームシルエットのマキシ丈で、両脇には深くスリットを。この下から、たっぷりギャザーを寄せたオリーブグリーンのペティコートが見えるわけだ。この辺りの作りは、プリジェン卿のドレスを参考にさせてもらった。
 袖は細身に仕立てて、カフスはガントレットの三つ釦。こちらにもオリーブグリーンのパイピングが施されている。
 足下は仕事用の靴のままだが、こちらも合わせて用意する予定だ。侍女(レディズ・メイド)ということを考慮したローヒールか、ブーツになるだろう。馴染みの靴職人は、何やら履かせたい型があるらしく、妙に張り切っていたけれど。
 彼曰く、趣味全開で好きに作らせてもらえるのはシャノンの仕事だけらしく、毎回楽しい実験状態らしい。それで良い物が出来上がってくるのだから、シャノンとしても文句の言いようがない。
社交界(ソサエティ)ドレスって言うから恐々としてたんですけど、意外と平気ですね」
 普段がミモレ丈の仕着せだからか、使用人は先程から、物珍しそうにスカートを摘んで矯めつ眇めつ眺めている。
「そこは、俺が作ってるんだから当たり前だろ」
 他所で作ったらぎっちぎちに詰めて締めまくるぞ、と半眼を向けたシャノンに、ひぃッと悲鳴をあげて使用人は自身を抱き締めた。
「まぁ、アッカー嬢は侍女役だからね。露出なくして清楚に整えてみた」
「素敵だねぇ。わたしも、デビューはこういうの着たかったな」
「いや、初参加の令嬢(デビュタント)向きではないから、こういうのは」
 何処かずれた反応のグウェンドリンを即座に切り捨て、こっちにおいで、と手招くシャノンの傍らに立った使用人は、鏡の前で大人しく点検を受ける。
「んで、気になるところはある?」
「大丈夫です、きついところはないですね」
 背中はどうです? と背を向けて尋ねる使用人を、少し離れて眺めたシャノンは、軽く眉根を寄せて唸る。
「……まぁ、このくらいでいいかな。気持ち詰めたいような気もするけど、侍女だしなぁ」
御主人様(ミストレス)の介助がお仕事ですからね」
 それじゃぁこれで進めるな、と試着室を指すと、使用人は「わかりましたぁ!」と軽やかに踵を返す。自動人形(オートマタ)が静かに扉を閉ざすのを見遣ったグウェンドリンは、素描をまとめて置くと立ち上がった。
「さて、お茶でも淹れようか」
「有難う、頼んだ」
 取り敢えず一段落だな、と嘆息するさまに、彼女はこくりを首を傾げる。
「あれで、まだ仮縫い?」
「そう。これで一度染色工房へ持ち込んで、型染めしてもらうことになってる。部分的に解いたり、繋げたまま染めたりするって」
 あのドレスの場合、襟元から切り返しの部分とカフス、スカートの一部へ流れるように型染めを入れる予定だ。序でに、襟の折り返しへ刺繍を少し。
「へぇ、後染めってそんなふうなんだ」
「型染めでやるのは珍しいかも? 手探りでやってるからしょうがないけど」
 軽く肩を竦めてみせ、店鋪から迫持を潜った奥を突っ切って、彼らは台所へ向かう。
 普段は調理に使われない場所ではあるが、小型のオーブンにはきちんと火が入れられているし、タンクには毎朝汲まれた水が満たされていて、いつでも気軽にお茶も楽しめるようになっていた。奇麗に片付いた戸棚からポットと茶葉を取り出すグウェンドリンの横で、その他必要なものを手早く取り出したシャノンは、それらを抱えて円卓へ戻る。
「あっち染めてもらってる間に、エッカート女史の方に取りかかって、と。茶会の支度が終わったら、アッシュベリ卿か」
 貴人を差し置いて先に侍女のドレスを製作するというと、不思議に思われるかもしれないが、手探りのお試し製作の側面もあるため、前もって大家婦人にも了承を得ていたりする。今は時間が取れるからいいが、どの手順なら効率がいいのか探っていかねば、繁忙期に泣きを見る。これで具合がいいのなら、以降も同じ手順で作っていくことになるだろう。
 円卓の上を整えながら語るシャノンへ、ふぅん、と感心した風情で相槌を打ちながらコックを捻ったグウェンドリンは、ふと思い立った様子で「あれ?」小首を傾げた。
「シャフツベリ卿のも作るって言ってなかった?」
「あっちは図案だけ起こして、お抱えのテーラーへ丸投げ。型紙も向こうでやるって話しだから。プリジェン卿は型紙までやるけど」
 シャフツベリ卿のお抱えテーラーたちも着実に伎倆を上げているようで、打ち合わせの段階で、意欲的に提案を受けている。序でに預けてきた図案集第二弾も大層喜ばれて、あれこれ画策しているようだ。
 プリジェン卿のドレスメーカーたちも、あちらの領館滞在中は世話になったこともあり、気軽に提案をしてくれる。そもそも、プリジェン卿のあのドレスたちを生み出した職人集団だ。出してくる案は面白いし、実に有意義な時間だったと言えるだろう。
「真に向上心が高い職人って、あんな感じなんだなぁ。上流階級お抱えのドレスメーカーと仕事してて、こんなに楽しいとは思わなかった」
 しみじみ零れた一言に、よっぽど大変だったんだね、とグウェンドリンがポットを片手に戻ってきて、生温かい眼差しを向ける。
 実際、これまで積み上げた実績を全く無視してテーラーを開いた辺り、心情が如実に現れているわけだが、そこはあまり触れないでもらいたいところである。結局、ドレスの注文が絶えないので意味がなかったが。
 思うに、ドレスメーカーに男性を採用するのは極力やめるべきである。
 でないと、無惨に砕けてしまう。それはもういろいろと。それらを乗り越え、悟る勢いで諦めて慣れていってしまった事実もあって、現在のシャノンが形作られているのだ。あまり健全とは言えない。
「そもそもシャナは、どうしてドレスメーカーになったの」
「完全に成りゆき。暫くお針子やってたんだけど、型紙やりたくなってそっちいって、たまたまドレスメーカーに気に入られたんだよね」
 その親方の元で型紙をひたすら起こしていたら、お針子をしていたことが知られて助っ人に駆り出され以下略である。辞める際も非常に惜しまれたが、更なる向上心を楯に押し切って、無事に脱出したのだった。ドレス自体からは逃げられていないけれど。
 午後のお茶がすっかり整った頃、お待たせしましたー、と身支度を整えて戻ってきた使用人は、シャノンに促されて嬉しそうに席に着いた。続いた自動人形はドレスを抱え、滑るように螺旋階段を上っていく。彼女へ任せておけば、染色工房へ持ち込むための梱包も済ませてくれるだろう。
 今日のお茶請けはグウェンドリンが持ち込んだパウンドケーキで、たっぷり入ったドライフルーツと、程よく香るブランデーが堪らない、マーシャル謹製の逸品である。昼間の柘榴(グルナディエ)が、数は多いものの女性のみで埋まることがないのは、こうした焼き菓子に魅了された男性も顔を出すからだろう。
 彼曰く、意外と甘いものを好む男性は多いらしい。
 実際、昼間の柘榴のカウンターにはガラスフードを被せた焼き菓子が日替りで多数並び、それらを真剣な眼差しで吟味しているご婦人たちに混じって、男性の姿も頻繁に見かけるのだ。若造から強面まで、人目を憚らず幸せそうに頬を緩めているさまを眺めるのは、無上の喜びだと語っていた。
 とはいえ、女性たちのように「甘い」「奇麗」「クリーム」等、わかりやすい記号で攻められない難しさもあるそう。恐らく、そういうところで人知れず燃えているのだろう。あれでマーシャルは、なかなか好戦的なのだ。
 結果、好みやその日の気分で選べた方がいいだろうと、少しずつ種類を増やしてみたらしいが、お蔭様で柘榴通いをやめられやしないと客からぼやかれているという。
 そのさまを可笑しそうに語りながら、マーシャルは「実は冬へ向けて仕込んでる新作があるんです」と唇の端を引き上げたのだった。それはきっと緩く立てたクリームとも相性はいいし、何よりコアントローをたっぷりとぶち込んでいるそうで、まだ頑なに甘いものを小馬鹿にしているおっさんたちを虜にしてやると、少々邪悪に笑っていた。
 何があったか知らないが、シャノンとしては平和に美味いものが食べられればいいので、深く突っ込むことなく聞き流したい所存である。
 閑話休題。
 ここ最近ご近所で美味しいと話題になっていたのだと、幸せそうにパウンドケーキにかぶりついていた使用人は、ふと思いついた様子でシャノンへ視線を向けた。
「ところでシャノンさん。ドレスメーカーをしてたころは、きりきりに細いコルセットのドレスって作らなかったんです?」
「あー、その頃は助手仕事だからなぁ。作られてたことは作られてたぞ」
 一番細かったのでこれくらい、と手で示してみせたのは、直径六インチほど。ひィッ! と悲鳴をあげた使用人は、気味が悪そうに身震いする。
「あぁあ、駄目です。あの腰見ると、ぞっとするんですよう。ぽっきり折れそうで怖いですし」
「わからなくもないけどねー。あの有り様で、内臓どうしてるんだって不思議に思うし。あれを、儚げで守ってやりたいとか、すっぽりと手に収まる細さが尊いとか、寝言ほざいてる奴らの気が知れない」
 第一、あんな状態の女が抱けるのだろうか。序でに、無事に妊娠出産できるのかと心配になる。あの状態の腰を支えて維持しているのはコルセットだろうに、妊ったらどうするのだろう。流石に、その辺りについては知る由もない。
 ……なんてことは、口には出さないが。気が知れない、という一言に深く頷いて、使用人はふとため息を零した。
「たっぷりと両手でも余って埋もれる胸と、指が組める程度の腰と、はちきれそうな太腿がいいんですって。どんな奇形だって話しですよね」
「え、何それ。アッカー嬢が言われたの? 数値上で見れば、滅茶苦茶均整取れてるのに」
 今回採寸して驚いたことに、見本として一番仕上がりが奇麗に見えるように作る数値と、そう大差ないのである。彼女なら、店先のトルソーに着せている衣装も直しなしでそのまま着られるだろう。そう言うと、果たして使用人は嬉しそうに笑った。
「そうなんですか! わぁ、嬉しい。あれ? 先生はどうです?」
 先生の方が出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでますよね、と主に胸元へ視線を向ける横で、シャノンは思案げにグウェンドリンの全身を一瞥する。
「あの腰回りで、あの胸はちょっとでかくないかと」
「わーわーわー!」
 真っ赤になって声をあげるグウェンドリンは、がしっとシャノンの肩を両手で掴み真顔で詰め寄る。
「シャナ、それは言わない。いいね?」
 えええー、と渋い顔をして、彼は不思議そうに首を傾げた。
「グウェンは隠したがるけどさー、女性も胸でかい方がいいんじゃないの? やたらもりもり嵩上げするじゃん」
「シャノンさん、そういうのは言わないであげた方がいいです……。あと、それ武装の意味が強いと思います」
 戦えないから盛るんですよ……? と悟りを開いた眼差しで窘められて、思わず「あ、はい」と頷く。
「んん、でもさ。均整取れてることは大事だよ? 美しいと言われる物には、黄金比があるからね。極端はよくない」
「職人としての意見はわかりましたけど、男性としては意見変わるんでしょう? そういうことなんですよ」
 何処か拗ねたふうに口を尖らせる使用人に、グウェンドリンは苦笑を浮かべた。
「でも、シャナの目って絶対に最初は全身を眺めるんだよね」
 衣装を改めてからは、より顕著な視線に晒されるようになった彼女だが、シャノンの視線の動きは相変わらず一貫しているらしい。曰く、以前は眺めた後、何か言いたげに視線を泳がせて結局飲み込んでいたけれど、現在は何処か満足げに見えるという。
 それに気付いてから観察してみると、老若男女問わずそんな感じで、相手が子供だとほんのりと微笑ましそうな眼差しになる。その後、視線は襟元やカフス等の細部へさり気なく移動して、最終的には顔へ固定されるのだ。
 そんなことをしみじみと語られて、驚いたのはシャノンだ。
「え、そんなにあからさまだった?」
「うん、わたしに対しては。段々わかりやすくなっていったから、親しさの度合いかなって思ってた」
 男性にありがちな胸元をちら見されるよりよっぽど緊張する、と僅かに顔を強張らせて視線を逸らす。
「ほら、折角のシャナの服なのに、台無しになってないかとか」
「いやいや大丈夫だよ、ちゃんと可愛く着てるよ。グウェンの為に作ったグウェンの服なんだから、似合わないわけないじゃん!」
 慌てて言い募るシャノンに可笑しげに笑って、使用人は納得した顔をした。
「シャノンさん、服が大好きなんですね」
「いや、そうなんだけどそうじゃないっていうか」
 完全に職業病だなぁ、と嘆息して軽く眉根を寄せる。
「いい仕事してるの見つけると、思わず見ちゃうんだよ。どう処理してるのか、とか。欲を言えば縫い目も見たい。脱がせてひっくり返したい」
「そこまでいくと重症ですよ……?」
 あたしは流石にそこまで見ないです、とかぶりを振られて苦笑した。
「そりゃ、君は仕立てを生業としてないからね」
「母もそうじゃないと思いますけど」
「いやぁ、俺剥かれたよ?」
 あれは、お針子の仕事を手伝い始める前のこと。手許不如意で自作の衣服を適当に着ていた頃であり、それを知ったかの夫人に、問答無用で捲られたのだった。取り敢えず、屋外でなかったことだけが救いである。
 元々、彼が針を持ったのは幼い頃。幼馴染みで婚約者が、薮だろうが茂みだろうが構わずあちこち入り込み、毎回衣服へ鉤裂きを作っていたからである。しかもその頃の当人は全くお洒落には関心がなかったため、奇麗なローブが無惨に裂けてもへっちゃらだったのだ。
 嘆く彼女の母を見て、だったら自分が直せばいいのじゃないかと考えたわけだが、今思えば何故そうなる、と突っ込みたい思考だった。しかし、当時は素直にそう考えてしまい、幸か不幸か彼は手先が器用だった。序でに、集中力もそれなりに。
 果たして、地味に磨かれた技術はその後も地味に磨かれ続け、やがて自分で仕立てたら安価じゃないかと思いつく程度には仕上がって、運命の日を迎えたのである。その結果が、ご婦人にひん剥かれたというのが腑に落ちないけれど。
 奪い取った衣服の縫い目を観察し、仕上がりを隈なく確かめた夫人は、この手を遊ばせてるのは勿体無いから仕事を回してやろうと言ったのだ。
「……母さんってば何やってるの」
 頭を抱える使用人へ「昔の話し」とひらひら手を振って、感慨深げに唸る。
「あの時に剥かれてなかったら、今の俺はないよねぇ」
「それはどうなのかと思うんですが、否定もできないです」
 お針子としての基礎は当時に叩き込まれ、何となくやっていたことも矯正され、一年ほどで一人前へと仕上げられた。かの夫人曰く、あんまり変な癖がついていなかったから、直すのは楽だったらしい。
 そこからテーラーに声をかけられ、手伝い序でに諸々学んだ末に、あるパタンナーへ紹介された。丁度、きちんと型紙の引き方を学びたかったこともあり、気軽に移住することにしたのである。
「引っ越すって言ったら、アッカー嬢に泣かれたんだっけ?」
「泣きましたねぇ」
 へぇ、と愉快そうに目許を緩めたグウェンドリンの勘違いに気付いたのか、使用人は真顔で付け加えた。
「その頃のあたし、冒険者目指してましたからね。師匠に捨てられるって」
「本当にそうやって泣き喚かれたからな。誤解解くの苦労した」
 捨てないではないわー、と遠い目をするシャノンに照れ笑いを浮かべ、使用人は「若気の至りですよう」と口にする。
「聞きそびれてたけど、いつ諦めたの?」
「いつでしょう? 確か、昔は冒険者だったってお爺さんが流れてきたんです」
 昔語りで憧れを持っている子供たちを相手に、武勇伝を語っていたらしい。それはそれで楽しかったのだが、語る度に内容は変わり、大袈裟になり、なんだか変なの、と思い始めた頃に盗賊が出たそうだ。
 昔取った杵柄だろうと討伐を依頼され、意気揚々と出かけたのだが。
「あっさり返り討ちに遭いましてね。そんな時に、母のお使いで出掛けたあたしが、うっかり遭遇しちゃいまして」
「なんか嫌な予感がするな」
「地の利を活かして逃げまして、当然追ってくるじゃないですか。なので、なるべく障害とか罠に使えそうな物とかがある場所を選んで逃げ回って」
 最後に資材置き場へ駆け込んで、資材をぶちまけ一網打尽にして御用となったらしい。それ以降は真っ当に働こうと考えて、実家の家事を切り盛りしていたこともあり、裕福な家庭の下働きを目指そうと考えたそうだ。
「途中で予想外な展開をみせたな」
 呆れたとか目が覚めたわけじゃないのか、と微妙そうな表情を浮かべるシャノンに、使用人はこくりと首を傾げる。
「そうですか? だって、あんなのと戦うの嫌じゃないですか。それに、食いっ逸れしなそうです」
「そこで家業を継ごうとは思わなかったの?」
 不思議そうに尋ねるグウェンドリンに「そうですねぇ」と思案げな返事をして、僅かに眉根を寄せた。
「うちの母、お弟子さん結構持ってて。殊更にあたしが継がなくても、問題なかったんですよね。工房も、お弟子さんたちが切り盛りしていけばいいですし」
 その中でも一番出世したのがシャノンさんですね、と妙に感心した風情で手を打って、彼女は楽しげに笑った。
「母に手紙で報せたら、凄くびっくりしてましたよ」
「ちゃんと手紙出してるんだな?」
 当然です、と胸を張る使用人を微笑ましく見遣り、グウェンドリンはふとため息を落とした。
「……そろそろ、お師様へ近況出さなきゃ……」
 まだ出してないんだ、と生温かい眼差しを向けると、果たして彼女は「だって怖いじゃないか」と真顔で応える。そろそろ腹を括りなよ、とますます生温かくなる眼差しにもう一つため息をついて、彼女は紅茶を飲み干したのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み