第21話 目覚めし者達

文字数 7,172文字

そろそろ忘れてしまったと思うので書いておきますがこれは地獄内での話です。 

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「まずは……原市さんかな? 大型の自動旋盤を使っていたんだ。そこでリーダーしてた。確か2010年の年明けに一人ずつ目標を皆の前で発表したんだ」

「内藤が捏造していてもそれを発表しなかったあの?」

「おう! よく覚えてるなあ。で、原市さんが掲げたそれは、自動課の新しい大型の機械に挑戦していきたいとの話だった。なのにその年の3月には突然汎用に飛ばされて、その後、1ヶ月位頑張っていたが辞めて行った」

「本当にそれが原因なの?」

「うーんこれは俺の予想だが……でも当たらずとも遠からずだと思うぜ? 彼は汎用は全くの初心者で、こんな事も聞くのか? ってくらい簡単な事すらも聞いて来た」

「汎用では一番下っ端だもんねえ」

「そうだ。もう40代半ばで突然の異動だ。何を考えてそんなベテランをこっちに飛ばしたのか未だに分からん。今まで自動旋盤課を専門でやっていてそこのリーダーまで上り詰めたのに、突然バイトの俺の指導の下で仕事する羽目になっちまったんだ。それも仕方のねえ話……あの人、俺に敬語だったぜ? 今まで自動旋盤の方では係長やってたのに一瞬で一番の下っ端。内心それに耐えられねえのも分かる。それ以外思い付かん。俺も同じ様な目にあったんで良く分かるよ」

「どんな事?」

「不良品を作っちまって……それに腹が立ったと言わんばかりに自動班の手伝いをさせられてよ。俺より格下の奴に指示出されて屈辱だった話だ。例え他の奴が不良を作っても別部署に飛ばす事はしていないのに俺だけそういう事を平気でやるんだ。それ以外にも酷いのは早く仕事が終わってその週の納期の品物は全て終わったのに、終わった事を報告したら、同じように別の部署を手伝ってくれと言ってくるんだ」

「え……」

「仕事さえ終わればもう

『お疲れ様。今日は早上がりでもいいよ』

というのが普通だと思うんだ。なのに終わったら感謝もされず当然の様に不良を出した時と同じように罰ゲームの様に別部署に飛ばす。頑張って早く終わらせてもお礼はなく無条件で別部署の一番下っ端で働かされてしまう訳だ。さっきも言ったけど屈辱なんよ。あまり別部署の後輩とは話してもいないのに、そいつの元で働くなんてさ。頭悪すぎるだろ。最悪ミスって飛ばされるのはまだ納得いく。だが早く終わらせた時にも同じ目に遭わせるのだけは違うと思わねえか?」

「うん」

「でも一度そういう目に遭えば学習する。そう、早くやり過ぎるとそうなる事が分かっているので、仕事が少なくなってきたら意図的にゆっくりやる。そうすると、社長はにこにこ笑いながら仕事が遅いと文句を言ってくる。馬鹿で、センスもなく性格も悪く安月給しか払えねえ癖に、そういうアンテナだけは張り巡らしてる。最低だよ……二度と近くに来ないでほしいぜ」

「理不尽ねえ」

「それが従業員と会社の両方の為になる事ならまあ文句はない。例えばその分給料が高くなるとかな? だが当然それはない。早くやると大損なんだよ。従業員側にとっては。これは、

【会社側しか得をしない】

故に全く必要性が無い。それにわざわざ別部署に飛ばしてしまえば、新しく来た奴に1から作業内容を教えると言う手間も増える訳だ。
その分それに時間を取られる。これは一切金額が発生しない。金属を加工してお金に変えるんだからな。だから、気まぐれであちこち飛ばして覚える事が増えればミスも怪我も多くなる。オールラウンダーである必要はない。同じ部署で一つのジャンルを極めてなるべくそれだけを続けて行けばいいと思う」

「そうよね」

「その考えがよく表している会議の結果がある。うおおおおお」
ごとっ


「へえどれどれ? ……何これ……」
見るなり不愉快そうな顔になるアリサ。

「どうだ? 因みにこれ、時間が見切れてて分からんが、2時間相談した結果を書いている」

「しっかりと懲りずに新しい技術を募集してるじゃん……残業減らして稼働率上げるのがBest!! だとお? 何がBest!! だ。このworst野郎が……」

「worst野郎w」

「間違いないよ! それに、自分しか得をしない内容をどや顔で話してやがらあ……で、林って人がまともな事言ってるのに、その人の言っている事完全に無視してるじゃん……専務は独り言言ってるしww」

「そう、林って奴は木林よりも現状を把握していて、あまり色々詰め込み過ぎると嫌になって辞めちまうって事が分かっていて、真剣に伝えた筈だ。だが一切受け入れてくれない。多技能と言う器用貧乏を量産しようとする」

「文面から滲み出てるよ……」

「会議と言っているが良く見りゃ自分の意見しか通そうとしていないし、専務は独り言を言っているだけ。誰もそれに反応していないところから分かるな?」

「うん」

「そんな会議は会議として成立しない。ただの

【ぼくのかんがえたすごいアイディア発表会】

だ。こんな下らねえ会議が有意義な時間になるとは思えない。こんな薄っぺらな内容に2時間もかけてるんだぜ? 俺たちが働いてる間によ」

「こんな内容で2時間? ゆっくり喋ってたって事なの?」

「参加してねえから分からねえがよw」

「正に蛙鳴蝉噪あめいせんそうね。その時間を仕事なさいって言いたくなるわ。もしくは人生をログアウトしなさい!」

「そうだな。ああっと、話がそれちまったな。もう終わった筈なのに社長の話を蒸し返しちまったわ。ごめんよ」

「時間など無限にある。問題ない」
アリサの目付きが未だ嘗てない程に鋭くなる。

「えええ? どうしたんだよ……あ、ログアウトで思い出したわ」

「え?」

「今日のログインボーナス受け取って無かったわ」

「え?」

「ショボいけど毎日貰えるんだよ」

「私も貰えるの?」

「ああ、目をつぶると頭の中に変な画面が出て来るだろ? そこにログインと言うバナーが見える筈。それを強く念じて見な」
言われるがまま目を閉じる。

「あっ見えるね。ソシャゲのホーム画面みたいね。これがログイン? えい!」
すると



「あら? 露愚陰 某奈須って書いてあるわ! これってログインボーナスって事ね?」

「そうだ。アリサちゃんは1000ヘルじゃないか?」

「うん。まあ、要らないわ」

「ショボいけどそれでもこれを忘れると損した気分になるわ」

「復活薬なんてあるのね?」

「ああ、責め苦途中で死んでもそれを使えば復活する。自動的に。まあ使うかどうかの選択肢は出るがな」

「責め苦で死んじゃう場合もあるのね? でも復活出来るよね? さっき見たわよ」

「ああ、でもその場合半減しちまうんだ。復活薬があれば戻される前に復活するので半減せずに済む。で、隣の免除パスがあれば、一回だけ責め苦に行かなくても戦力とヘルが貰える」

「それを忘れたらへこむねえ。で、番土永度は?」

「死ぬ前に使えば体力が回復できる道具だ。因みにこれも復活薬も非売品だ。ログインボーナスのみで手に入る」

「そう言えばそんなのは売って無かったわね。でも、ヘールとかで回復すればいいんじゃない?」

「ああ、あのコトダマ高いからなあ。使えればすげえ楽なんだがなあ」

「大体分かったわ。続けて」

「そうかい? 原市さんに関してはどう考えても社長の采配ミスが原因だなあ。人としての優しさと2ヶ月前の事を覚えていられる少しの記憶力さえありゃこんな事をする筈が無いんだがなあ」

「うん。馬鹿が頑張ると優秀な人が減っていくって言うのが良く分かる話ね」

「次は田島だ。あいつは日本大学を卒業していたのにここに入ってきて、あまりにも単調な仕事に飽きて辞めちまったんだろうな。しかし、おかしい事があったんだ」

「え? 何で知ったの?」

「入って来た時に日本大学から来ましたと言ってたからなあ」

「社長の差し金ね?」

「え?」

「有名大学を出たんだからみんなに報告してやれと」

「そうかもな。今までそんな事を紹介する奴はいなかったからなあ。言われて見りゃそうだわ。うちにも日本大学卒業が入って来た。誇らしい事だ! うちも大きくなったなあ……とでも思ったのか?」

「社長って巨大な権威にひれ伏す犬じゃん。でも、お前の力じゃないだろ!!」

「その通りだ……そういや大学を出てたからなあ、あいつも」

「え?」

「内藤だよ」

「あのゴミが? 幼卒だとばかり思ってたけど大卒だったんだ」

「そう。だから、社員として採用されたんだ……結果とんでもない事になっちまったけどな」

「捏造」

「そう、今気付いたわ……ずっと分からなかったんだけど、そういや忘年会で奴が大卒だと言う話を聞いてもいないのに語っていた」

「手紙でもそう書いてたよね。どうしてこの会社に入れたのかって……」

「ああ、社長って単純な奴だったんだな。大学さえ出れば間違いないという考え……」

「浅い考えね」

「ああ。で、おかしな事とは、そいつは1月に昼礼で聞いた話では2か月後の3月に辞めるって話だったんだ。だが、2月の始めから一切来なくなった。あれ? もう辞めちまったのかと思った矢先、3月の辞めるという予定日になったら1日だけ出社して、一人一人に、

『今日で辞めるのでお世話になりました』

といやらしい笑顔と共に言って去って行った」

「一言多いw」

「そこまで好きな奴でもなかったからなあ」

「でも一ヶ月の空白は何してたの?」

「それは有給休暇をまとめて取っていた訳だ」

「賢いじゃん」

「確かに……だけどな、今まで辞めて行った人達はそういう事はしないで、部下に自分の仕事の引継ぎ等で、今まで培った技術を叩き込むのに忙しくて例え有給が残っていたとしても、消化しない人がほとんどだったんだ。後、最後の一ヶ月だし、なるべく一緒に居たいという

【思い入れ】

みたいな物もあったりで、ギリギリまで出社する。まあ、それがかっこいいって訳じゃあないけれど、そういう風潮だったし、様式美って言うのか? 使わない美しさ? 良く分からんがそういうのがあって、あって無いような物だったんだよな。もちろん使ってもいいんだぜ? でも、示し合わせる様に誰も使っていないで最後の最後まで出社し続けた。俺もそれが当たり前と思っていたんだ。だからそんな事をする奴は20年務めた中でも田島が初めてで、

【こんな最低の事する奴いたんだ】

と思った程だ」

「www」

「理屈では分かってるんだよ。でもよお……なんか嫌な気分が田島の事を考える度よぎった。田島にはそういう人情とかが一切無く、ルールはルールと機械的に有休を消化していたと気付いた時、何となく悲しくなったな。まあ間違った行動じゃないんだが……流石有名な大学を出ただけの事はあるよな。使える物は全て使い、引継ぎとか自分に取ってそこまで意味の無い物は排斥すると言ったきらいもあった。後、笑顔か嫌いだった」

「確かに……私も好きにはなれないわ」

「笑顔もか?」

「うん」

「見た事ないだろww」

「イメージで嫌いになれたわww」

「すげえwwでも一応こんな顔だ。うおおおお」



「うわ。嫌らしい顔ね。納得だわ。日本大学を出ればこんな面にもなるわよ……でも日本大学はそういう事も教えてくれるのね。4年も時間をかけただけあっていい事を教えてもらったじゃない……でも、何か法の抜け道を巧い事すり抜けている感じがして嫌い。まるで犯罪者ね」

「それ、言い過ぎwwルールに乗っといているから」

「それ内藤!」

「ありゃ……あんなのと同じ間違えしちまったww次は桑名君だな。良く俺に休み時間話して来て、今はまっている動画を見せてくれたり、自分のやっているソシャゲのガチャを引かせてくれたりお菓子とかもくれたりした。普通にいい奴だった。普通に話していて楽しかった。俺はバイトで彼は社員だからいずれ抜かれるけどそれでもいいと心底思える後輩だった。内藤にジロジロ見られて辞めちまったけどな」

「あ、手紙で言っていた子ね? これは社長のせいじゃない珍しい例か。年老いた老人が、若者の若さを恨めしそうに見ていた事を察知して逃げたって事ね? イノチホシイ。ワカイイノチウラヤマシイって見てたんだよね」

「間違いない。後は古屋だな。あいつは仕事も出来る奴だったんだがいかんせんトイレの回数が多すぎて」

「ああこれも手紙でも言ってた人ね? その後内藤が入ってきて……」

「そうだ。本来あいつが汎用で頑張っていく筈だったのに、社長がよく指導もせずクビにした。結果、あんな失敗作が入ってきてしまったという話」

「他は?」

「荒川だな。あいつは1日で辞めちまった」

「あら可愛いww」

「唐突のダジャレw履歴書書いて面接して社員として受かったってのにたったの1日だ。こんなの準備の方が長かったろ……何があったんだ? それは今でも謎だな」

「相当社長が嫌いだったんだね。ファーストインプレッション?」

「かもな。次は塩沢だ。あいつは一度辞めて2年ぐらい経ったらまた戻ってきた。そして一年勤め上げてからまた辞めたと言う珍しい男だ」

「二度寝wwww」

「ああ、確かにwアリサちゃんすごいなあ。的確な表現だよ! 折角一度やばい所だと覚めたのになw後五分だけ……と再び眠りに就き、寝てはみた物の、やっぱここ寝心地悪いわ……って目覚め、ベッドを変えたって感じか?」

「そうそうw」

「次は沼上君かなあ。イケメンで腹筋も割れている」

「忘年会でその話題が切っ掛けで内藤がすべったあの腹筋の持ち主ね?」

「そうそう。彼は内藤の息子と同時に入って来たんだ。同じ日に」

「へえ」

「で、滅茶苦茶仲良くしていた。家族ぐるみの付き合いだったのかも。内藤じじいの事も初対面と言う感じの話し方じゃなかった。多分同じ高校で、でも」

「ん?」

「内藤が風にあおられて衝立と共に倒れ、台の角にぶつけた話あったろ?」

「うん」

「倒れた時に駆け寄って行ったのは意外にも石井と言う男で、沼上は大笑い……ちょっと腹黒いのかなって思っちまった」

「内藤だからいいじゃん」

「そうなんだけど爽やかイケメンが人の不幸で声は出さなかったけど、満面の笑みだったのはショックだったんだよなあ。まあ俺もありがとうとは思ったけど、関係者だったら心配して駆け寄るのが人情ってもんだよ。石井は嫌な奴だけどこういう所はいい奴だったかもしれん」

「沼上君も気付いていたのかもね」

「捏造か?」

「そう」

「確かに沼上がいた時にこの話をしたから気付いたのかもしれんが」
そう言って先程出したブロックを拾う。



「この文面だけでは犯人を内藤と推測するのは難しいかもしれないけど、彼は気付いたんだよ」

「そうかもな。これくらいかな。もういいかな? まだいるけど、後の人達はそこまで大きい印象はないからさ、例えば記念撮影の時に社長が1+1は? って言った時に、

【う〇こー】

って叫んで本来1+1の答えで社長の呼びかけの答えである

【にー】

と言う作られた笑いよりも、本当の笑顔を引き起こしたり、『うーん……チンカー』と言う響きが面白いギャグを頻繁に使用したり、『大便に行こうかなあ?』『やっぱやめよ』と何回か繰り返し言いながらトイレに出入りしていて、俺が飽きた頃に急にトイレから出てこなくなってどうしたのかな? と思ったら、本当に大便をしていた事が判明した横谷君、(ニックネームう〇こ君)や、トイレでう〇こをする時に同時におしっこもして、おしっこの勢いで便座と便器の隙間からおしっこが流れ出て、床をおしっこまみれにして居なくなったおしっこ君とか、毎月5000円貸して下さいと言ってきて、そのために一々5000円をおろして貸していたら手数料だけで5000円に到達した事に気付き、大損させられた佐々木君 (ニックネームお金君)や、写真撮影時にうっかり目を閉じてその顔がキス顔に似てると気付かれた山崎君ことキッス君や、会社のBBQで肉を食って酒を飲みすぎて気持ち悪くなって、その全てを川にプレゼントしたゲロ美ちゃんとか癌になって半年で完治させて戻ってきて、真冬でも半袖で仕事するまでに成長したカムバック君とかさ、癌になって髪の毛がぼろぼろと抜け落ちてもう死んでしまうのかと思いきや完全回復して今やプロゴルファーに転職したガンゴルフおじさんや数え上げたらキリがねえし……手紙にも書いてたけど120人分のストーリーを全部言う訳には流石にいかんだろ……」 

「ちょwすごいバラエティ豊かww一人一人ニックネーム付けるんだねw」

「まあ言いやすいしな」

「その話も聞きたいじゃないwww」

「そういやこんなミスしちまったなニックネームのせいで」

「え?」

「おしっこ君の正体は山中君っていうんだが、用事があって呼びかけるときにおしっ……山中君……って言っちまってさ。何で山中とおしっていう言葉を言い間違えるんですか? ってw」

「鈴木さんの中だけでつけてた奴よねw」

「ああ、ニックネームで呼びそうになっちまったんだよな」

「先生をお母さんと言い間違える奴ね」

「そこまで酷い話じゃねえけどな。後輩だし。でも全員分言っちまったらそれこそ20万文字行くぜ?」

「わかったわよ。諦めてあげる。それにしてもこの会社癌になって戻ってきた人が2人もいるんだw」

「まあ俺の居た会社は

【普通じゃない】

んだ」

「わかったわ。でも、ニックネームが単純ね」

「そう、その人達は特筆大書すべき点は

【一つしかない】

だが、これから紹介する人間は一つじゃすまない。恐ろしい人間達だ。覚悟はいいんだな?」

「ええ。聞いてやるわ!」 

「何度も言うが泣くなよ?」

「もう泣かない。じゃあそろそろ今でも残っている精鋭のナンセンス社員の話聞かせて!」

「あまりの恐怖で失神するなよ?」

「泣かないし失神もしない!!」

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もうすぐ鈴木の過去編は終わるので気を付けて下さい。
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