第19話 内藤さん ラストフィニッシュファイナルアタック
文字数 9,363文字
人は落ちるところまで落ちるとこういう行動に出るみたいですね。あっフィクションです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あいつな、俺がトイレに入る時間は把握してるってさっき話したよな?」
「うん」
「だから、俺の入る直前にう〇こをして、その残り香で攻撃してきたんだw」
「ひええwでも偶然とかじゃないの?」
「いや……散々フィクションフィクション言ってたけど、ここだけは、ここだけは……ノンフィクションなんだ。信じてくれ!! 頼む!!」
突然椅子から降り土下座をする鈴木。
「え? どうしたの突然……凄い熱量じゃない……修ちゃんを思い出しちゃったよ……うん、分かった信じるよ……面を上げい……って、え? え? いつそんな事言ったの? そんな話あったっけ? フィクションってワードさ、私達の会話の中では一度も出てきていないよ?」
「読者さんだけは分かるんだぜ!」
「そうなのかあ……って読者様って何?」
「おいおい……んな事俺に聞いても分かる訳ないだろw」
「ああ、そうだったねwまあその話一応信じるんだけどさあ……子供以下じゃない?」
「残念だがこれも実際に見たから間違いない」
「何を?」
「内藤がトイレから出て来るところをだ。12時の3分前と16時の3分前に決まって出て来る様になった」
「嘘……そこまでする奴なんだ……確かに動物園のゴリラも檻の中からもう〇こを投げつけてくる場合もあるらしいけど」
「ああ……う〇こは武器になる。強力な武器にな。本能的に知っていた奴はそれを最後の武器として使用した。どうしても俺を許せなかったんだろう。自分が捏造した事などすっかり忘れて復讐の鬼と化してしまった……3分前なら最高の残り香を俺にお届けする事が出来る。おまけに異様に臭くてよ、恐らく前日に肉を沢山食って強化してくれてるかもしれん。言っていて恐ろしい内容だがな」
「芸術家気質w」
「なんだそりゃ?」
「鈴木さんに最高の状態の大便を届けようとドーピングして来たんだからそう思っちゃうでしょ?」
「そういう事か……」
「でも11時57分に排便して、15時57分にも出せるかなあ?」
「そうなんだよ。同じクオリティなんだよなあ」
「もしかして」
「え?」
「12時に排便した時は50%だけ排出し、15時57分に取っておいたんじゃない?」
「リサイクソw」
「リサイクソwwwwまあ実際は分便だけどねwwwwそこまでするのかよ、恐ろしい……」
ゴゴゴゴゴ
二人はふと既に出してある内藤のブロックに目をやる。
ブロックから異様なオーラが出ている気がする。負のオーラ。死のオーラ。負け犬のオーラ。
「勿論別の人に見られたら困るのもあり、しっかりと流してはあったが、明らかに直後の感じで滅茶苦茶臭かった」
「もう便座も温める事も出来なくなって、睨む事も無理。最後の手段で自分のう〇こで攻撃して来たって事なの?」
「ああ、奴は自分の最高の武器がうんこだと分かったんだ」
おいおい……伏せてくれないか?
「最低の最高の武器w」
「確かに最強で、この攻撃は地味に苦しかった。こっちも催しているのにこの臭い。逃げたくても逃げられん。しかも冬は窓を開ける筈なのに、この攻撃手段に変更した途端、臭いを逃がしたくないから窓を閉め切ってくれていた」
「徹底してるねえwでも初めからこうすれば絶対に気付かれずに鈴木さんを攻撃で来たんだよね?」
「確かにな。まあ頻繁にトイレから出る姿さえ見られなければだがな」
「そうだよね」
「その毒の蓄積で俺は気付かずに死んでいたかもしれん。実際その後気分が悪くなり病欠が多くなってな。それに目を付けた社長に呼び出され、クビになったんだ。奴に見事リベンジされたって事だな」
「ひええ……うんこパワー恐るべし」
伏せなくっちゃ駄目だよ!
「ああ、しかも老人のうんこ。そんな物にクビにされたと思うのはらわた煮え繰り返るわ」
伏せなくっちゃ駄目でし!
「トイレも気の毒よね」
「ああ、だがそこに辿り着くまでにいくつかのステップを踏んでくれたお陰で少し生きながらえたって事か」
「少しって……ああ、結局自殺しちゃったんだもんね……」
「そうだ……」
「悔しいよね……でもせめて便座温め&冷やし、睨むからのう〇こ残り香の順番のお陰で気付く事は出来たって事だよね?」
「ああ、決まった時間に攻撃してきたのはすぐに分かったので、トイレの時間をずらす事で無事回避する事に成功した」
「馬鹿で助かったよね」
「だけどよ……これがだぜ? このきったねえじじいがだぜ? この肛門から出た塊で攻撃してきたんだよw」
「分身の術wwwwwwww」
「え?」
「こいつはさあ、もうう〇こみたいなもんじゃん」
「え?」
「自分がう〇こと自覚していて、う〇こがう〇こを出して攻撃したんだから、分身の術でしょw奴の分身が流れていく間際に残した香りで鈴木さんを攻撃したんだよw」
「肛門から出すタイプの分身かよ……ひでえwしかしアリサちゃんは発想力豊かだなあ」
「でしょ? 左利きだもん」
「ああ、そういえば内藤もなんだよなあ」
「え?」
「あいつも……左利きなんだ」
「ええええええええ」
「信じられないが本当だ。左利き特有の発想力を生かし、誰にもばれない様に工夫してありとあらゆる嫌がらせを俺に届けてくれた訳だ。捏造した癖によ」
「成程ねえ。捏造したのも工夫だったんだね」
「言われて見りゃそうだな。自分の仕事が遅い。どうしよう? よし! 捏造で補えばいい。という事か」
「そうね。でも本来はどうすれば早く出来るかを考える工夫をするべきよね」
「その通り」
「そして嫌がらせに関しては試行錯誤の末、行きつく先は原点回帰だった」
「ん?」
「便座を温めたり冷やしたりの攻撃よりも、睨むよりも、気付かない様に時間的に鈴木さんが入る直前に出した自分のう〇こが、そう、う〇ここそが、最後の、そして、最高の、攻撃だった……と……灯台下暗しねえ。その発想力を仕事を早く終わらせるアイディアを思い付くのに使いなさいよ……左利き業界の恥さらしね……左手を切り落としてほしい」
「ひえええ……そこまで言うか? だがなあ年が年だから無理だったんだろうな」
「う〇こみたいな奴ねえ」
「そうだよw自分の排泄物すら武器にしてしまう恐ろしい男。奴は、
『どうしょうも無い……よし、最終手段だあ』
って思い付いたのがあの最低の作戦……そんな作戦なあ、う〇こじゃなきゃ思い付けないんだよ!」
「wwwww」
「社長も嫌いだったがここまでされて、その瞬間は内藤の方が嫌いになれたぜ。兎に角悪足掻きが醜すぎてなあ。あいつに足りないのは
【潔さ】
だ」
「大体わかったわ。最低の話だった。でも手紙の内容……内藤も堪えたでしょうw」
「さあ? 直接読んでいる所は見ていないからな。渡したらすぐに立ち去ったからな。その後、普通に破り捨てた可能性もある。で、その後も余り変化がなかったので、次なる作戦は直接話してみた。
『内藤! お前は裏で誤魔化しているのに……その事を黙って社員として高い給料を受け取り続けている事実を家族のみんなに言えるのか? お父さんは不正をして汚い金でお前らを養っているんだぞ! ってさ! そんな事を続けてお前恥ずかしくな……』
「ちょっといい?」
「ん?」
「今お父さんってって言う恐ろしい空耳が聞こえたんだけど……」
「え? ああ、あいつは妻子持ちだ」
「えええええ? あの顔で?」
「おっとアリサちゃん? 顔じゃなくて肛門だよ?」
「そうだったわ。ごめんね。あの肛門で妻子持ちとか信じられん」
私は顔を肛門と言い直すアリサの方が信じられん。
「俺も信じられん。どう考えても妻子持っちゃいけない系男子なのになあ」
「wwww」
「そうそう、奴の子供も木林製作所で働いていたからな」
「へえ」
「奴が入る前に入って来た」
「子供の方が先に入ってきて、後からじじいが釣られて入って来たって流れなのね」
「そうだ。鼻と唇が奴に瓜二つで、言われなくても親子と分かった。奥さんの遺伝子が入ってないくらいそっくりで、最早ドラゴンキューブのピッコロン大魔王の様な出産方法で生まれたとしか思えん」
「口から卵を出す感じ? そいつも捏造してたの?」
「俺とは違う部署で生き生き仕事してたな。だから分からん。まあ奴よりも先に辞めちまったけど」
「理由は?」
「そこまでは分からん。突然消えた」
「でもじじいの方は辞めてくれなかったと……」
「そう。本当にしぶとい奴だと思ったぜ……で、俺は更にこう続けた。
『俺は能力が控えめでパートさんよりも仕事が出来ないからこういうテクニックを使って上手に銭を稼いでるんだ! どうだ? 偉いだろう? 頭いいだろ?』
って家族に自慢でもしてるんか? それにお前年のせいか不良率高いよな? お前しか不良箱使ってないぞ? いっそ内藤専用箱に改名したらどうだ? と」
「不良箱?」
「失敗した物を一旦そこに入れて、毎週火曜日の昼礼でみんなの前で報告するんだ。みんなの前で話すのが苦手な俺は、不良を作ったら最悪の気分だぜ。例えば水曜日に不良作っちまったら、六日間それをどう言って報告しようって悩み続ける位だったからなあ」
「へえ……メンタル弱いのね……」
「ああ、それで不良品を出さない様に一度ミスった物は日記を付けてしっかりと記録した」
「いいじゃん!」
「内藤はそんな事は一切せず、不良を作ってもへらへら笑いながら提出し、また同じミスを繰り返す。ここまでの奴の偉業を自覚してるならさ、普通は潔く白状して辞めるか、何も言わずに辞めるかの2つしか選択肢はないだろ?」
「一般の良識があればそうよね」
「だが奴は言わないで続けるを選んじまった」
「奴しか得をしないパターンね」
「そうだ。最後にも書いたが定年まで居座るつもりだろう。あれだけ叱っても、手紙を受け取った直後も涼しい顔で仕事してやがったからな。すげえメンタルだよ……」
「でも、ほんの少しくらい影響はあったんだよね?」
「そういやあったな」
「何?」
「ISO外部監査の当日欠席する技術を得た」
「逃げたw」
「俺が手紙内でISO剥奪の危機の立役者と書いたから、外部監査の予定を社長が昼礼で発表するんだがその日だけはあの頭の悪い男でもしっかりと記憶していて出勤しなかった。あいつさすげえ健康なんだよ」
「え?」
「皮膚もボロボロ体もブクブク。老人オブ老人なのに一切病気をしない」
「嫌いな奴が健康なのって嫌だもんねえ。そういや手紙でも足が悪くなった事を喜んでたもんね」
「すぐ復活したがな……それの方が堪えるぜ……だから休んでくれた時は工場の邪気が消えて嬉しい気分がした訳だが……その行動の意味は、保身……それ以外の何物でもない」
「そうよね……PC内に全て証拠が残ってるのに今更体だけ逃げたところでねえ」
「そう、外部監査の人にPC内を見られたらもうアウトなのに意味なく休む」
「じゃあ、お説教に対するじじいのリアクションは? 直接言った訳だし、少しは効果あったんでしょ?」
「ノーリアクションだ」
「は?」
「返す言葉もないという事か? 薄ら笑いを浮かべ、ヘこへこと頭を下げて俺から逃げる様に消えていくだけ。一度もその事に関して声を発しないんだ。表情も一つも変えずに……プロのゴミだなって思ったわ」
「プロ? ああ、それで稼いでるからプロでいいのかwww」
「仕事の時だから喋らないのか? と思って、休み時間に押しかけてさっきの事を言っても薄ら笑いを浮かべて一礼したり、時々俺の正論にグサッときたのか嫌そうな表情になったり、そうかと思えば突然狸寝入りをしたりと……その3つのパターンを繰り返していて、結局
【一切喋らなかった】
休み時間の5分が無駄になったぜ。で、一応言いたい事を言いきって一時的に俺の怒りが収まり、お説教が終わったと分かったら、まるで悲劇のヒロインみたいに悲しそうな顔もしていた。俺が休み時間を使って一生懸命説教してやってるって言うのに突然眠りだすんだぜ? ありえねえだろ?」
「で、こいつはどうせ鈴木さん程度ならそれを報告する度胸がないって高を括ったって事? 腐ってるわね。しかし、元やくざとは思えない根性の無さね」
「いやいやw俺が直感的に感じただけで、本当にやくざかどうかは分からないよ。でな? お説教は無駄だと判断し、この職場を出て行きたくなるような代替案を出す事にした」
「そんなの無いよ」
「一応あるんだ。こんな提案だ……
『お前はこの仕事向いていないからその顔を生かしてお化け屋敷でお化け役のアルバイトをやればいいんじゃないか?』
と提案したんだ」
「あっ! それって最高のアイディアじゃない!」
「そう、メイク要らずで朝起きた瞬間顔面肛門酷似型のゾンビだから、ボロボロの服に着替えるだけで脅かす係として間違いなく成立する。まあ最悪普段着で成立可能」
「顔面肛門酷似型wwww初めて聞いたわwwどんな型のゾンビよwwww」
「で、道の真ん中に突っ立っていて、
『おはようございます』
って言うだけで巨大な力士ですら恐れをなして何度も転びながら逃げて行くから適材適所だぜ! ってアドバイスしたんだぜ?」
「そうなんだ。でも力士さん転んで死んじゃうかもしれないのはかわいそう」
「しなないしなないw それに例えばの話だってwまあ力士だぜ? 投げられて土俵から落ちたくらいで死んだ力士を見た事ないだろ?ww」
「まあそうよね……それなのに何故か製造業でちまちま作業する方を選んで、尚且つちょっぴり頑固だけど仕事は速く真面目なおじいさんと言う人物像を、指示書の捏造をする事で演じ続けようとしていたのね? 誰にも需要が無いのに……何でだろう……」
「奴の中ではそれがいい年の取り方だと思っているんだろうな……俺もそんな年の取り方をしたいと思っていた。ここだけは内藤と同意見だ。だが、実力が足りなすぎる。なのに仕事中の態度、喋り方は正にアリサちゃんの言ったそれ。中身は伴っていないのに。だから奴の話を聞く度に吹き出しそうになる。捏造してんの隠してその役になり切ったところで知っている俺からすりゃ単なるコント……それを分かった上で演じているんだよ。どういう神経してんだよ……」
「手紙でも書いてあったけど本当に見栄っ張りなのね……あいつの顔はお化け屋敷のお化けとしてなるべくして生まれた男なのに、自分の才能を生かしきれず捏造がばれている鈴木さんに嫌がらせをしつつ、おっそい仕事を続けていたって事ね……要らなすぎる……」
「で、事件が起こってしまった……いや、そう、ついに社長の奇行の瞬間を話す時が来た」
ぬ? 奴の奇行について話すかと言ってからようやくその答えか……一体何文字だよ……ちょっと数えてみるか……ええと、11話の
『内藤さん!?』
の7777文字中の序盤を抜いて
『奴の奇行について話すか』
から数えて……1、2、3、4、……5226文字か……そして次の
『鈴木の手紙』
は7777文字。
『鈴木の手紙 後編』
は6602。で、
『内藤の手紙1』
が9114、2が8303、3が12895、4が9547で、
『内藤さんの嫌がらせ!』
で6638で今話の
『奇行の瞬間を話す時が来た』
までが、5772字。ぬはぁあ……これを足し算して……71874字か
……おったまげたあ……でもよおここまで来たらよお70000ピッタリに出来なかったのかよお? こんな中途半端な数字で……情けない……でも、稼げたんだよね? たくさん。じゃ、いっか……でもよく考えたらもう10万は越えてると思うんだ。でも敢えてそれは数えない。だってまだ途中だもん。終わるまでが遠足だって言うから終わるまでは数えない。それにもしかしたら下がるっていう可能性もあるじゃん。奇跡が起こって99999で止まってくれるかもしれないんだ! だからまだ、数えない、数えない、数えない……
「あ、そういえばそんな話だったよね……どんだけ長い前振りよ……」
「こんな長くなるとはな……ごめんよ。でな、いつもの様にじじいが近くに来たので仕事をしながらお説教してたんだ。相変わらず無視だけどな。で、ヒートアップしてしまって声が大きくなっていたんだな。そしたら、突然
『いい加減にしろ!』
っていう汚ねえ声が聞こえたんだ。すぐ傍で。コミュニケーション講座の時に叫んだ声よりも遥かに大きい声で」
「え?」
「奴が、社長が現れたんだ。まるでワープでもしたのかって位気配を感じなかった。突然顔を出して怒り狂っていた。多分死角からずっと聞いていたのか? そこまでは分からんが俺とじじいの間に入り込んで、説教している俺を悪魔の様な顔で睨みながらそう言ったんだ。悪魔なんて想像上の生物だが、その顔こそが本物の悪魔の真の姿だという確信を得る程、悪魔のお手本の様な顔だった。恐らくそれを目にしたのはその時が初めての筈なのに、何故かいい加減にしろだ」
「そう言えばそうよ。いい加減にしろって言葉は何回も言う事を聞かない時に言うセリフよ!」
「日本語がちょっと疎いのか? それとも噂で俺が内藤に説教しているって言う事を誰かから聞いていて、それを目の当たりにしたから、奴の中では初めてではないという事でのいい加減にしろ! だったのかもな。ここは推測の域だが」
「そうだね。でも怒る相手逆じゃない?」
「ああ、その後、しばらく驚きの余りに次の言葉が出てこず絞り出した声で
『え?』
と言ったら、
『えじゃねえんだよ!』
とたしなめるように言った。その後、何でこいつここに来たんだ? とか、何でしっかりと聞いているんだ? とか、俺が怒られてる? 何故?? とか幾つもの謎を解明するため必死に考えていたら……それを遮り……
『おかしくなっちゃうだろ!』
と続けた」
「はあ?」
「元々おかしいのを元に戻そうとしている最中での出来事だ」
「だよね」
「しかも工場内に響き渡る程の自信に満ち溢れた大声で。1点の迷いもない顔だった。自分には一切非が無いと言う力強い瞳。これが別のシチュエーションで俺が助けられる立場で女だったら一発で惚れている程だな。本当にかっこよかったわ。だが違うんだ全くな……おかしくなっちゃいますか? そうですか……分かりました!! とはどう考えてもならないよな? 権力のゴリ押しだ」
「そうだよ! それにそんな爺さんがおかしくなって本当に困る事あるのかしら?」
「隠居寸前のヨボヨボ爺さんを必要としていたのか? 全く分からん……まさか……」
「まさか?」
「見初められちまったか?」
「内藤が社長に? うえー……そんな事言わないで下さいよ!」
「アリサちゃんも桑名君みたいになってるぜww」
「さっきの報復ね? 素で出たわ……もちろん桑名君も同じだったと思うよ。それ程嫌なイメージが浮かんじゃったわ。早急に脳を掃除、洗浄、漂白しないと……」
「ごめんよ。でも内藤は見る人によっては好きになる要素が……」
「ある訳ねえだろ!」
「ある訳ねえだろ!」
同時に突っ込む二人。
「申し訳ねえ……この二つのセリフ、どちらも奴は使い所を間違えている。いい加減にしろは何回か言う事を聞かない時にしか言う事の出来ない言葉なのに、それを初見で言ってしまった」
「それとも誰かから鈴木さんが内藤を叱っている話を聞いていて、それでそれを目の当たりにしたから、いい加減にしろだったって考えもあるわ」
「それもあるな。それだったら納得だ。でもそうだとしたら、いい加減にしろじゃなくってもっと言え! そんな悪い男どんどん叱ってしまえってならんか? こんな男を守る意味はあるのか?」
「無いよ。で、内藤は社長の愚行に対し、
『社長! 鈴木さんを叱るのは止めてくれ。全部俺が悪いんだ』
と、説得した訳でもないんだよね?」
「ああ、俯いて悲劇のヒロインのような顔をしていたが、心で笑っていただろうな……鈴木め、ざまあみろってな……二人とも狂ってる。これを奇行と言わず何と言う? 自分の会社の不利益をもたらしている人間を守り、それを食い止めようとする俺を全力で叱ったんだぜ?」
「奇行としか言い様が無いよ! 内藤も一切反省してないね」
「ああ。で、次のおかしくなっちゃうだろ! は、別にこんな未来の無い老人の脳がいかれたところで何一つ問題ない」
「間違いないよねwwwでも異常よ! こいつ、過去に鈴木さんを従業員総動員して自殺に追いやるくらいまでいじめ抜いた癖に、こんな奴には優しくしてさ! 何正義の味方面してんだ!」
ドガッ
具現された内藤のブロックを蹴飛ばす。
「ああ、俺は間違いなく正しい事を言っていたんだぜ? あれだけ分かりやすく手紙にも記したのによ……という事は正論をぶつけ続けるとおかしくなるという事なのか?」
「精神崩壊しちゃうって事?」
「多分そうだと思う。まあ俺は正論を言い続けられても、正しいのだから納得して従うと思う」
「私もそこまではいかないよ。まあ論点をずらして何としても説き伏せるけど」
「すげえなあw」
「社長は何でそんな事言ったのかしら?」
「恐らく……俺の言っている事が正しくて罪の重さで押し潰されてしまいおかしくなってしまうと考えたとか? あいつは大勢が見ている前ではあまり大声を上げない男だったんだ。自分を良く見せたい気持ちが強いから。だが今回は人目を一切気にせず怒鳴り散らしてた」
「そうか、奴に取っても忘れてしまいたい程の悪事なのよ。それを何度も何度も鈴木さんの言葉で通りかかった誰かに聞かれてしまうと思い、怒った……って事か……」
「それしか考えられん。ん? それともこれも略語なのかもな」
「え?」
「アリサちゃん奴のセリフを彼結気って略して言ってたじゃないか」
「ああ、あれね」
「いい加減にしろもおかしくなっちゃうだろも何かの略なのかも?」
「どんな風に?」
「バイトが粋がるな! 誰かにこの会社の秘密がバレたらどうすんだ! いい加減にしろ。と、社員で大切な俺の仲間がバイトのたわ言でおかしくなっちゃうだろ。かなあ?」
「でもそれで誰かにその話を聞かれたとしても、内藤が壊れたとしても、内藤自身のせい。自業自得よ!」
「そうだな。だからかもしれんが確かに内藤は一切俺に反論していない。言いたくても正論過ぎて反論の糸口が見えないと言った所か。それが傍から見れば言葉の暴力で一方的に嬲っている様にも見える。だからそいつを守ったと考えてもおかしくない」
「そう見えなくも無いよね」
「だが社長は俺の書いた手紙を専務から受け取り読んでいた筈なんだ」
「その根拠は?」
「俺は確か専務に手紙を渡した。これが社長に伝わっているかは聞いていない」
「うん」
「だが、これにもそう疑わしき根拠がある。もしそれで俺にあの剣幕で怒ったとしたら全く逆になる」
「そうよね。何も知らなければ内藤が一方的にいじめられているのを守ろうとする正義の心。そして、知っていたのならば内藤の罪を知りつつ守ったという事になる」
「理解が早いな……流石神裔Ⅳ様だぜ。じゃあそれを見せるか……また記憶具現で出すぜ?」
「すごいねその能力」
「え? みんな持ってる力だよ? うおおおお」
ごとっ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オラは野薔薇神之助だぞぉ。好きなファイターはフィクション仮面だぞぉ
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あいつな、俺がトイレに入る時間は把握してるってさっき話したよな?」
「うん」
「だから、俺の入る直前にう〇こをして、その残り香で攻撃してきたんだw」
「ひええwでも偶然とかじゃないの?」
「いや……散々フィクションフィクション言ってたけど、ここだけは、ここだけは……ノンフィクションなんだ。信じてくれ!! 頼む!!」
突然椅子から降り土下座をする鈴木。
「え? どうしたの突然……凄い熱量じゃない……修ちゃんを思い出しちゃったよ……うん、分かった信じるよ……面を上げい……って、え? え? いつそんな事言ったの? そんな話あったっけ? フィクションってワードさ、私達の会話の中では一度も出てきていないよ?」
「読者さんだけは分かるんだぜ!」
「そうなのかあ……って読者様って何?」
「おいおい……んな事俺に聞いても分かる訳ないだろw」
「ああ、そうだったねwまあその話一応信じるんだけどさあ……子供以下じゃない?」
「残念だがこれも実際に見たから間違いない」
「何を?」
「内藤がトイレから出て来るところをだ。12時の3分前と16時の3分前に決まって出て来る様になった」
「嘘……そこまでする奴なんだ……確かに動物園のゴリラも檻の中からもう〇こを投げつけてくる場合もあるらしいけど」
「ああ……う〇こは武器になる。強力な武器にな。本能的に知っていた奴はそれを最後の武器として使用した。どうしても俺を許せなかったんだろう。自分が捏造した事などすっかり忘れて復讐の鬼と化してしまった……3分前なら最高の残り香を俺にお届けする事が出来る。おまけに異様に臭くてよ、恐らく前日に肉を沢山食って強化してくれてるかもしれん。言っていて恐ろしい内容だがな」
「芸術家気質w」
「なんだそりゃ?」
「鈴木さんに最高の状態の大便を届けようとドーピングして来たんだからそう思っちゃうでしょ?」
「そういう事か……」
「でも11時57分に排便して、15時57分にも出せるかなあ?」
「そうなんだよ。同じクオリティなんだよなあ」
「もしかして」
「え?」
「12時に排便した時は50%だけ排出し、15時57分に取っておいたんじゃない?」
「リサイクソw」
「リサイクソwwwwまあ実際は分便だけどねwwwwそこまでするのかよ、恐ろしい……」
ゴゴゴゴゴ
二人はふと既に出してある内藤のブロックに目をやる。
ブロックから異様なオーラが出ている気がする。負のオーラ。死のオーラ。負け犬のオーラ。
「勿論別の人に見られたら困るのもあり、しっかりと流してはあったが、明らかに直後の感じで滅茶苦茶臭かった」
「もう便座も温める事も出来なくなって、睨む事も無理。最後の手段で自分のう〇こで攻撃して来たって事なの?」
「ああ、奴は自分の最高の武器がうんこだと分かったんだ」
おいおい……伏せてくれないか?
「最低の最高の武器w」
「確かに最強で、この攻撃は地味に苦しかった。こっちも催しているのにこの臭い。逃げたくても逃げられん。しかも冬は窓を開ける筈なのに、この攻撃手段に変更した途端、臭いを逃がしたくないから窓を閉め切ってくれていた」
「徹底してるねえwでも初めからこうすれば絶対に気付かれずに鈴木さんを攻撃で来たんだよね?」
「確かにな。まあ頻繁にトイレから出る姿さえ見られなければだがな」
「そうだよね」
「その毒の蓄積で俺は気付かずに死んでいたかもしれん。実際その後気分が悪くなり病欠が多くなってな。それに目を付けた社長に呼び出され、クビになったんだ。奴に見事リベンジされたって事だな」
「ひええ……うんこパワー恐るべし」
伏せなくっちゃ駄目だよ!
「ああ、しかも老人のうんこ。そんな物にクビにされたと思うのはらわた煮え繰り返るわ」
伏せなくっちゃ駄目でし!
「トイレも気の毒よね」
「ああ、だがそこに辿り着くまでにいくつかのステップを踏んでくれたお陰で少し生きながらえたって事か」
「少しって……ああ、結局自殺しちゃったんだもんね……」
「そうだ……」
「悔しいよね……でもせめて便座温め&冷やし、睨むからのう〇こ残り香の順番のお陰で気付く事は出来たって事だよね?」
「ああ、決まった時間に攻撃してきたのはすぐに分かったので、トイレの時間をずらす事で無事回避する事に成功した」
「馬鹿で助かったよね」
「だけどよ……これがだぜ? このきったねえじじいがだぜ? この肛門から出た塊で攻撃してきたんだよw」
「分身の術wwwwwwww」
「え?」
「こいつはさあ、もうう〇こみたいなもんじゃん」
「え?」
「自分がう〇こと自覚していて、う〇こがう〇こを出して攻撃したんだから、分身の術でしょw奴の分身が流れていく間際に残した香りで鈴木さんを攻撃したんだよw」
「肛門から出すタイプの分身かよ……ひでえwしかしアリサちゃんは発想力豊かだなあ」
「でしょ? 左利きだもん」
「ああ、そういえば内藤もなんだよなあ」
「え?」
「あいつも……左利きなんだ」
「ええええええええ」
「信じられないが本当だ。左利き特有の発想力を生かし、誰にもばれない様に工夫してありとあらゆる嫌がらせを俺に届けてくれた訳だ。捏造した癖によ」
「成程ねえ。捏造したのも工夫だったんだね」
「言われて見りゃそうだな。自分の仕事が遅い。どうしよう? よし! 捏造で補えばいい。という事か」
「そうね。でも本来はどうすれば早く出来るかを考える工夫をするべきよね」
「その通り」
「そして嫌がらせに関しては試行錯誤の末、行きつく先は原点回帰だった」
「ん?」
「便座を温めたり冷やしたりの攻撃よりも、睨むよりも、気付かない様に時間的に鈴木さんが入る直前に出した自分のう〇こが、そう、う〇ここそが、最後の、そして、最高の、攻撃だった……と……灯台下暗しねえ。その発想力を仕事を早く終わらせるアイディアを思い付くのに使いなさいよ……左利き業界の恥さらしね……左手を切り落としてほしい」
「ひえええ……そこまで言うか? だがなあ年が年だから無理だったんだろうな」
「う〇こみたいな奴ねえ」
「そうだよw自分の排泄物すら武器にしてしまう恐ろしい男。奴は、
『どうしょうも無い……よし、最終手段だあ』
って思い付いたのがあの最低の作戦……そんな作戦なあ、う〇こじゃなきゃ思い付けないんだよ!」
「wwwww」
「社長も嫌いだったがここまでされて、その瞬間は内藤の方が嫌いになれたぜ。兎に角悪足掻きが醜すぎてなあ。あいつに足りないのは
【潔さ】
だ」
「大体わかったわ。最低の話だった。でも手紙の内容……内藤も堪えたでしょうw」
「さあ? 直接読んでいる所は見ていないからな。渡したらすぐに立ち去ったからな。その後、普通に破り捨てた可能性もある。で、その後も余り変化がなかったので、次なる作戦は直接話してみた。
『内藤! お前は裏で誤魔化しているのに……その事を黙って社員として高い給料を受け取り続けている事実を家族のみんなに言えるのか? お父さんは不正をして汚い金でお前らを養っているんだぞ! ってさ! そんな事を続けてお前恥ずかしくな……』
「ちょっといい?」
「ん?」
「今お父さんってって言う恐ろしい空耳が聞こえたんだけど……」
「え? ああ、あいつは妻子持ちだ」
「えええええ? あの顔で?」
「おっとアリサちゃん? 顔じゃなくて肛門だよ?」
「そうだったわ。ごめんね。あの肛門で妻子持ちとか信じられん」
私は顔を肛門と言い直すアリサの方が信じられん。
「俺も信じられん。どう考えても妻子持っちゃいけない系男子なのになあ」
「wwww」
「そうそう、奴の子供も木林製作所で働いていたからな」
「へえ」
「奴が入る前に入って来た」
「子供の方が先に入ってきて、後からじじいが釣られて入って来たって流れなのね」
「そうだ。鼻と唇が奴に瓜二つで、言われなくても親子と分かった。奥さんの遺伝子が入ってないくらいそっくりで、最早ドラゴンキューブのピッコロン大魔王の様な出産方法で生まれたとしか思えん」
「口から卵を出す感じ? そいつも捏造してたの?」
「俺とは違う部署で生き生き仕事してたな。だから分からん。まあ奴よりも先に辞めちまったけど」
「理由は?」
「そこまでは分からん。突然消えた」
「でもじじいの方は辞めてくれなかったと……」
「そう。本当にしぶとい奴だと思ったぜ……で、俺は更にこう続けた。
『俺は能力が控えめでパートさんよりも仕事が出来ないからこういうテクニックを使って上手に銭を稼いでるんだ! どうだ? 偉いだろう? 頭いいだろ?』
って家族に自慢でもしてるんか? それにお前年のせいか不良率高いよな? お前しか不良箱使ってないぞ? いっそ内藤専用箱に改名したらどうだ? と」
「不良箱?」
「失敗した物を一旦そこに入れて、毎週火曜日の昼礼でみんなの前で報告するんだ。みんなの前で話すのが苦手な俺は、不良を作ったら最悪の気分だぜ。例えば水曜日に不良作っちまったら、六日間それをどう言って報告しようって悩み続ける位だったからなあ」
「へえ……メンタル弱いのね……」
「ああ、それで不良品を出さない様に一度ミスった物は日記を付けてしっかりと記録した」
「いいじゃん!」
「内藤はそんな事は一切せず、不良を作ってもへらへら笑いながら提出し、また同じミスを繰り返す。ここまでの奴の偉業を自覚してるならさ、普通は潔く白状して辞めるか、何も言わずに辞めるかの2つしか選択肢はないだろ?」
「一般の良識があればそうよね」
「だが奴は言わないで続けるを選んじまった」
「奴しか得をしないパターンね」
「そうだ。最後にも書いたが定年まで居座るつもりだろう。あれだけ叱っても、手紙を受け取った直後も涼しい顔で仕事してやがったからな。すげえメンタルだよ……」
「でも、ほんの少しくらい影響はあったんだよね?」
「そういやあったな」
「何?」
「ISO外部監査の当日欠席する技術を得た」
「逃げたw」
「俺が手紙内でISO剥奪の危機の立役者と書いたから、外部監査の予定を社長が昼礼で発表するんだがその日だけはあの頭の悪い男でもしっかりと記憶していて出勤しなかった。あいつさすげえ健康なんだよ」
「え?」
「皮膚もボロボロ体もブクブク。老人オブ老人なのに一切病気をしない」
「嫌いな奴が健康なのって嫌だもんねえ。そういや手紙でも足が悪くなった事を喜んでたもんね」
「すぐ復活したがな……それの方が堪えるぜ……だから休んでくれた時は工場の邪気が消えて嬉しい気分がした訳だが……その行動の意味は、保身……それ以外の何物でもない」
「そうよね……PC内に全て証拠が残ってるのに今更体だけ逃げたところでねえ」
「そう、外部監査の人にPC内を見られたらもうアウトなのに意味なく休む」
「じゃあ、お説教に対するじじいのリアクションは? 直接言った訳だし、少しは効果あったんでしょ?」
「ノーリアクションだ」
「は?」
「返す言葉もないという事か? 薄ら笑いを浮かべ、ヘこへこと頭を下げて俺から逃げる様に消えていくだけ。一度もその事に関して声を発しないんだ。表情も一つも変えずに……プロのゴミだなって思ったわ」
「プロ? ああ、それで稼いでるからプロでいいのかwww」
「仕事の時だから喋らないのか? と思って、休み時間に押しかけてさっきの事を言っても薄ら笑いを浮かべて一礼したり、時々俺の正論にグサッときたのか嫌そうな表情になったり、そうかと思えば突然狸寝入りをしたりと……その3つのパターンを繰り返していて、結局
【一切喋らなかった】
休み時間の5分が無駄になったぜ。で、一応言いたい事を言いきって一時的に俺の怒りが収まり、お説教が終わったと分かったら、まるで悲劇のヒロインみたいに悲しそうな顔もしていた。俺が休み時間を使って一生懸命説教してやってるって言うのに突然眠りだすんだぜ? ありえねえだろ?」
「で、こいつはどうせ鈴木さん程度ならそれを報告する度胸がないって高を括ったって事? 腐ってるわね。しかし、元やくざとは思えない根性の無さね」
「いやいやw俺が直感的に感じただけで、本当にやくざかどうかは分からないよ。でな? お説教は無駄だと判断し、この職場を出て行きたくなるような代替案を出す事にした」
「そんなの無いよ」
「一応あるんだ。こんな提案だ……
『お前はこの仕事向いていないからその顔を生かしてお化け屋敷でお化け役のアルバイトをやればいいんじゃないか?』
と提案したんだ」
「あっ! それって最高のアイディアじゃない!」
「そう、メイク要らずで朝起きた瞬間顔面肛門酷似型のゾンビだから、ボロボロの服に着替えるだけで脅かす係として間違いなく成立する。まあ最悪普段着で成立可能」
「顔面肛門酷似型wwww初めて聞いたわwwどんな型のゾンビよwwww」
「で、道の真ん中に突っ立っていて、
『おはようございます』
って言うだけで巨大な力士ですら恐れをなして何度も転びながら逃げて行くから適材適所だぜ! ってアドバイスしたんだぜ?」
「そうなんだ。でも力士さん転んで死んじゃうかもしれないのはかわいそう」
「しなないしなないw それに例えばの話だってwまあ力士だぜ? 投げられて土俵から落ちたくらいで死んだ力士を見た事ないだろ?ww」
「まあそうよね……それなのに何故か製造業でちまちま作業する方を選んで、尚且つちょっぴり頑固だけど仕事は速く真面目なおじいさんと言う人物像を、指示書の捏造をする事で演じ続けようとしていたのね? 誰にも需要が無いのに……何でだろう……」
「奴の中ではそれがいい年の取り方だと思っているんだろうな……俺もそんな年の取り方をしたいと思っていた。ここだけは内藤と同意見だ。だが、実力が足りなすぎる。なのに仕事中の態度、喋り方は正にアリサちゃんの言ったそれ。中身は伴っていないのに。だから奴の話を聞く度に吹き出しそうになる。捏造してんの隠してその役になり切ったところで知っている俺からすりゃ単なるコント……それを分かった上で演じているんだよ。どういう神経してんだよ……」
「手紙でも書いてあったけど本当に見栄っ張りなのね……あいつの顔はお化け屋敷のお化けとしてなるべくして生まれた男なのに、自分の才能を生かしきれず捏造がばれている鈴木さんに嫌がらせをしつつ、おっそい仕事を続けていたって事ね……要らなすぎる……」
「で、事件が起こってしまった……いや、そう、ついに社長の奇行の瞬間を話す時が来た」
ぬ? 奴の奇行について話すかと言ってからようやくその答えか……一体何文字だよ……ちょっと数えてみるか……ええと、11話の
『内藤さん!?』
の7777文字中の序盤を抜いて
『奴の奇行について話すか』
から数えて……1、2、3、4、……5226文字か……そして次の
『鈴木の手紙』
は7777文字。
『鈴木の手紙 後編』
は6602。で、
『内藤の手紙1』
が9114、2が8303、3が12895、4が9547で、
『内藤さんの嫌がらせ!』
で6638で今話の
『奇行の瞬間を話す時が来た』
までが、5772字。ぬはぁあ……これを足し算して……71874字か
……おったまげたあ……でもよおここまで来たらよお70000ピッタリに出来なかったのかよお? こんな中途半端な数字で……情けない……でも、稼げたんだよね? たくさん。じゃ、いっか……でもよく考えたらもう10万は越えてると思うんだ。でも敢えてそれは数えない。だってまだ途中だもん。終わるまでが遠足だって言うから終わるまでは数えない。それにもしかしたら下がるっていう可能性もあるじゃん。奇跡が起こって99999で止まってくれるかもしれないんだ! だからまだ、数えない、数えない、数えない……
「あ、そういえばそんな話だったよね……どんだけ長い前振りよ……」
「こんな長くなるとはな……ごめんよ。でな、いつもの様にじじいが近くに来たので仕事をしながらお説教してたんだ。相変わらず無視だけどな。で、ヒートアップしてしまって声が大きくなっていたんだな。そしたら、突然
『いい加減にしろ!』
っていう汚ねえ声が聞こえたんだ。すぐ傍で。コミュニケーション講座の時に叫んだ声よりも遥かに大きい声で」
「え?」
「奴が、社長が現れたんだ。まるでワープでもしたのかって位気配を感じなかった。突然顔を出して怒り狂っていた。多分死角からずっと聞いていたのか? そこまでは分からんが俺とじじいの間に入り込んで、説教している俺を悪魔の様な顔で睨みながらそう言ったんだ。悪魔なんて想像上の生物だが、その顔こそが本物の悪魔の真の姿だという確信を得る程、悪魔のお手本の様な顔だった。恐らくそれを目にしたのはその時が初めての筈なのに、何故かいい加減にしろだ」
「そう言えばそうよ。いい加減にしろって言葉は何回も言う事を聞かない時に言うセリフよ!」
「日本語がちょっと疎いのか? それとも噂で俺が内藤に説教しているって言う事を誰かから聞いていて、それを目の当たりにしたから、奴の中では初めてではないという事でのいい加減にしろ! だったのかもな。ここは推測の域だが」
「そうだね。でも怒る相手逆じゃない?」
「ああ、その後、しばらく驚きの余りに次の言葉が出てこず絞り出した声で
『え?』
と言ったら、
『えじゃねえんだよ!』
とたしなめるように言った。その後、何でこいつここに来たんだ? とか、何でしっかりと聞いているんだ? とか、俺が怒られてる? 何故?? とか幾つもの謎を解明するため必死に考えていたら……それを遮り……
『おかしくなっちゃうだろ!』
と続けた」
「はあ?」
「元々おかしいのを元に戻そうとしている最中での出来事だ」
「だよね」
「しかも工場内に響き渡る程の自信に満ち溢れた大声で。1点の迷いもない顔だった。自分には一切非が無いと言う力強い瞳。これが別のシチュエーションで俺が助けられる立場で女だったら一発で惚れている程だな。本当にかっこよかったわ。だが違うんだ全くな……おかしくなっちゃいますか? そうですか……分かりました!! とはどう考えてもならないよな? 権力のゴリ押しだ」
「そうだよ! それにそんな爺さんがおかしくなって本当に困る事あるのかしら?」
「隠居寸前のヨボヨボ爺さんを必要としていたのか? 全く分からん……まさか……」
「まさか?」
「見初められちまったか?」
「内藤が社長に? うえー……そんな事言わないで下さいよ!」
「アリサちゃんも桑名君みたいになってるぜww」
「さっきの報復ね? 素で出たわ……もちろん桑名君も同じだったと思うよ。それ程嫌なイメージが浮かんじゃったわ。早急に脳を掃除、洗浄、漂白しないと……」
「ごめんよ。でも内藤は見る人によっては好きになる要素が……」
「ある訳ねえだろ!」
「ある訳ねえだろ!」
同時に突っ込む二人。
「申し訳ねえ……この二つのセリフ、どちらも奴は使い所を間違えている。いい加減にしろは何回か言う事を聞かない時にしか言う事の出来ない言葉なのに、それを初見で言ってしまった」
「それとも誰かから鈴木さんが内藤を叱っている話を聞いていて、それでそれを目の当たりにしたから、いい加減にしろだったって考えもあるわ」
「それもあるな。それだったら納得だ。でもそうだとしたら、いい加減にしろじゃなくってもっと言え! そんな悪い男どんどん叱ってしまえってならんか? こんな男を守る意味はあるのか?」
「無いよ。で、内藤は社長の愚行に対し、
『社長! 鈴木さんを叱るのは止めてくれ。全部俺が悪いんだ』
と、説得した訳でもないんだよね?」
「ああ、俯いて悲劇のヒロインのような顔をしていたが、心で笑っていただろうな……鈴木め、ざまあみろってな……二人とも狂ってる。これを奇行と言わず何と言う? 自分の会社の不利益をもたらしている人間を守り、それを食い止めようとする俺を全力で叱ったんだぜ?」
「奇行としか言い様が無いよ! 内藤も一切反省してないね」
「ああ。で、次のおかしくなっちゃうだろ! は、別にこんな未来の無い老人の脳がいかれたところで何一つ問題ない」
「間違いないよねwwwでも異常よ! こいつ、過去に鈴木さんを従業員総動員して自殺に追いやるくらいまでいじめ抜いた癖に、こんな奴には優しくしてさ! 何正義の味方面してんだ!」
ドガッ
具現された内藤のブロックを蹴飛ばす。
「ああ、俺は間違いなく正しい事を言っていたんだぜ? あれだけ分かりやすく手紙にも記したのによ……という事は正論をぶつけ続けるとおかしくなるという事なのか?」
「精神崩壊しちゃうって事?」
「多分そうだと思う。まあ俺は正論を言い続けられても、正しいのだから納得して従うと思う」
「私もそこまではいかないよ。まあ論点をずらして何としても説き伏せるけど」
「すげえなあw」
「社長は何でそんな事言ったのかしら?」
「恐らく……俺の言っている事が正しくて罪の重さで押し潰されてしまいおかしくなってしまうと考えたとか? あいつは大勢が見ている前ではあまり大声を上げない男だったんだ。自分を良く見せたい気持ちが強いから。だが今回は人目を一切気にせず怒鳴り散らしてた」
「そうか、奴に取っても忘れてしまいたい程の悪事なのよ。それを何度も何度も鈴木さんの言葉で通りかかった誰かに聞かれてしまうと思い、怒った……って事か……」
「それしか考えられん。ん? それともこれも略語なのかもな」
「え?」
「アリサちゃん奴のセリフを彼結気って略して言ってたじゃないか」
「ああ、あれね」
「いい加減にしろもおかしくなっちゃうだろも何かの略なのかも?」
「どんな風に?」
「バイトが粋がるな! 誰かにこの会社の秘密がバレたらどうすんだ! いい加減にしろ。と、社員で大切な俺の仲間がバイトのたわ言でおかしくなっちゃうだろ。かなあ?」
「でもそれで誰かにその話を聞かれたとしても、内藤が壊れたとしても、内藤自身のせい。自業自得よ!」
「そうだな。だからかもしれんが確かに内藤は一切俺に反論していない。言いたくても正論過ぎて反論の糸口が見えないと言った所か。それが傍から見れば言葉の暴力で一方的に嬲っている様にも見える。だからそいつを守ったと考えてもおかしくない」
「そう見えなくも無いよね」
「だが社長は俺の書いた手紙を専務から受け取り読んでいた筈なんだ」
「その根拠は?」
「俺は確か専務に手紙を渡した。これが社長に伝わっているかは聞いていない」
「うん」
「だが、これにもそう疑わしき根拠がある。もしそれで俺にあの剣幕で怒ったとしたら全く逆になる」
「そうよね。何も知らなければ内藤が一方的にいじめられているのを守ろうとする正義の心。そして、知っていたのならば内藤の罪を知りつつ守ったという事になる」
「理解が早いな……流石神裔Ⅳ様だぜ。じゃあそれを見せるか……また記憶具現で出すぜ?」
「すごいねその能力」
「え? みんな持ってる力だよ? うおおおお」
ごとっ
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オラは野薔薇神之助だぞぉ。好きなファイターはフィクション仮面だぞぉ