第2話

文字数 826文字

寝室に入り、ベッドの上で眠っている妻の顔を見つめた。
妻はまだ眠っているようだったが、顔色がひどく悪かった。
僕はその妻を見て、一瞬、死んでいるのではないかと思ったほどだった。
しかし、胸は規則正しく動いているし、呼吸もしているので、死んではいないとわかった。
だが、これは、いつ死んでもおかしくない状況だなと思った。
僕が今こうしてここにいる間にも、妻は苦しんでいて、命をすり減らしているのだ。
そう思うと、なんだか、たまらなく悲しくなってきた。
僕は妻の手を握った。
すると、僕の手の中で、彼女の手がぴくりと動いたような気がした。
それで僕はハッとしたのだが……気のせいではなかったようだ。
妻はゆっくりと目を開けて、こちらを見た。
そして、かすれた声で言った。
彼女は泣いていた。
どうして泣いてるんだ? と、僕は尋ねた。
だって……あなたが目の前にいるんですもの……。
妻はそう言ってから、涙を拭った。
そんな妻の姿に、僕はまた泣きそうになった。
でも、泣かなかった。
泣くのは後にしよう。
今はとにかく、やるべきことをやるしかない。
そう思ったからだ。
僕たちはその後、しばらく話をした。
話と言っても、言葉はほとんど交わさなかったけれど、それでも僕は嬉しかった。
やがて、面会時間の終わりが迫ってきた。
そろそろ行かなきゃいけないよ、と言うと、妻は寂しげな顔をして、それから微笑みながら言った。……ねえ、お願いがあるんだけど。
何だい? と、僕が尋ねると、妻は少しためらいがちに口を開いた。……キスして欲しいの。
いいとも、と答えてから、僕は妻の唇に自分のそれを重ねた。
触れるだけの軽いものだったが、とても温かく感じられた。
ありがとう、という妻の声を聞きながら、僕は病室を出た。……さあ、帰ろう。
病院を出る時、振り返ってみたが、もうそこには妻はいなかった。
僕は歩き出した。
足取りはとても軽かった。
家に帰る途中、コンビニに立ち寄って、おにぎりを買った。
家に帰って食べた。
とても美味しい味だった。
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