創作論?

文字数 2,093文字

「小説作法」とか「物語の創り方」などを謳った「創作指南」や「創作論」を、SNS等で公開されている方が結構います。私が以前入り浸っていたインスタにも数人いましたし、現在よく利用しているnoteでも何人か見かけます。
 我ながら悪趣味だなぁと思いつつ、時々興味本位にチラッと流し読みしてみることもあるのですが、「なるほど!」と思わせる話の展開の仕方や構成、思わず納得してしまいそうになる結論の導き方など、稀になかなか面白いことが書いてあることもあります。内容はともかく。
 でも、肝心の内容に関しては、全く共感出来ないことの方が圧倒的に多いですし、否定こそしなくても疑問符が付きまとうことも珍しくありません。明らかに「それは違うでしょっ!」と思うこともあります。
 これは、ある意味で占いと似た面もあり、良い話は信じたいし賛同したくなるのですが、悪い話は穿った見方になってしまい、否定したくもなるのでしょう。ここで言う「良い」「悪い」は、自分にとって都合が良いか悪いかだけでして、客観的な視野は最初からないのです。
 結局、その「創作論」を発信している人のことを知らないと、「誰かが何か言っている」というだけで、耳障りの良い言葉しか受け止めようとも思わないのでしょう。

 でも、それだけではありません。
 作家(プロアマ問わず)なんて、書くスタイルも作風も内容も個性も皆んなバラバラですから、身も蓋もないことを言いますと、小説を書くにあたって「こうすればいい」なんていう絶対的な解なんてあるはずがないのです。強いて言えば、文法や漢字、慣用句、一般的な表記ルール、(差別用語などの)表現の適切性など『国語』だけを学べばいいのでしょう。
 もし、そういう『国語』だけに限定した「指南」でしたら幾分か有意義でしょうし、有益でもあると思います。何故なら、客観的な解でもあるからです。

 そもそも、占い師が自分の未来を占わないのと同じで、それだけ人には色々と指南出来るのに、ご自分でヒット作を生み出していないことが何よりも説得力を欠く要因となっているのです。
 逆に言うと、東野圭吾や宮部みゆきや伊坂幸太郎や湊かなえといった超売れっ子作家が「小説の書き方の指南書」を出版すれば、私は読んでみたいと思うでしょう。もし、その内容が自分の考えと全く違っていても、素直に受け入れると思うのです。少なくとも、否定や反発はしないです。
 いや、プロの作家に限らず、人柄を敬愛し、作品をリスペクトしているクリエイター仲間からの指南であっても、有り難く耳を傾けると思うのです。
 一方で、知らない人……はまだしも、全く実績のない方や、リスペクト出来ない人の創作論には、何も魅力を感じません。何故なら、前話の【因果】にも通じる話になりますが、「それなら、どうしてあなたの作品は売れないの?」「あなたの作品なんて参考にしたくないですから!」という疑問や感情が拭えないからです。

 もっとも、スポーツ界では「名選手、名コーチにあらず」という言葉もあります。現役時代に素晴らしい成績を残したからといって、名コーチになれるものではありませんし、逆に、現役時代はパッとしなかった選手だったのに、すごく優秀なコーチになるケースもあることは歴史が証明しています。
 これは、音楽界の指導者にもみられます。いや、めちゃくちゃ多いです。大して弾けない優れたピアノ指導者は、私の身近にも本当に沢山存在します。そう考えると、ヒット作を生み出していない作家でも、「名コーチ」になる可能性はあるのかもしれません。
 ただ、もしそうだとしても、それは引退後の話なのです。年齢に関係なく、現役での活動に見切りを付け、指導者に専念したケースがほとんどなのです。なので、今、現役で書いているのでしたら、先ずは自分で自分を指導して、結果を残すべきではないでしょうか? 最低でも、自分の指導で誰かが成功した例を示すべきです。
 やはり、因果の「果」がない人がどれだけ「因」を語ったところで、机上の空論に過ぎないのです。

 実際のところ、そういう人は「自分の創作論が誰かの参考になれば……」という献身的な気持ちや啓蒙的な考えを全面に打ち出してはいるものの、そんな思いなんて本当は皆無で、本音は「教えたい」だけなのでしょう。きっと、自己評価がものすごく高く、自己顕示欲と承認欲求が強く、なのに周りからの実際の評価は自分の予想より遥かに低く、そのギャップを埋めるために積極的に「教えたがる」のです。
 要は、「キャー、すごーいっ!」と褒められたいのです。「ありがとうございます!」と感謝されたいのです。「すごく為になりました!」と正当化して欲しいのです。あくまで、個人的な考察ですけど。
 なので、やたらと「教えたがる」人って、私はちょっと苦手です。

 現実的に、著名な作家による「創作論」はそれほど多くは見かけません。近年では、筒井康隆がそれに似たものを書きましたが、皮肉なことに、その内容は「小説作法の類は読まなくてよい」というものでした。

 最後に、数ヵ月前の知念先生のつぶやきを貼っておきます。



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