変態紳士3原則 その1

文字数 2,060文字

 学校という集団にはカースト的なものが存在する。
 イジメになるかどうかは別にして、まぁ目立つ一軍とかその他大勢二軍とか怪しい集団三軍とか、適当な分類としてのグループ分けだ。一軍に行くほどリア充が増えるし注目度が高い。そして俺自身は中学まで万年二軍から三軍を行ったり来たりの普通な奴だった。
 うん過去形。
 一応主張しておくが、一軍になりたいなんて分不相応なことは考えたこともなかった……んだが。
 高校に入って何故か懐いてきたアホイケメンで、一軍の中でも更にラスボス的な立ち位置にいる桂木によって、俺も自動的に一軍に割り振られてしまっている高校生活一年目である。
 何しろこいつ誰にでも当たり障りない超万人受け系爽やかリア充イケメンの癖に、どこに誘われても絶対に俺を呼ぼうとする。そこで相手が渋ろうもんなら、爽やか笑顔で「じゃあ俺もいいや、また今度」が炸裂するらしい。俺を呼ばない時の桂木同行率は10%以下だとかなんとか。
 それが続いた結果、最近は相手に確認するまでもなく俺がセットで誘われてると思ってるんで、誘う相手の方もすっかり学習して俺をセットで桂木を呼ぶ。桂木のコミュ力が有能すぎて誘わない選択肢があまりないようだ。
 そんな桂木なのに、成績以外の問題で絶対に一軍最高のポジが揺るがないんで、桂木がつるむ俺も自動的に一軍の中である。誘ってくる一軍連中の中に混ざると、超目立つ地味メン俺。女子の視線が集まっても「山田だけ普通よね」という哀れみの目で見られている気がする。
 正直気楽な二軍以下に戻りたい。
 が、やばい秘密を持ってるくせに、根がアホなせいか言動の怪しい桂木を放っておけず、結局桂木といる時間は長めである。
 そんな五月の終わり。
 そろそろ始まる初めての中間テストを前にしてテスト期間前から既に「やばいもう全然授業がわかんね!」状態桂木を連れて図書室に来た。今日は二人だけだ。何もない日に勉強したがる健全な男子高校生なんてほぼいない。女子だっていない。進学校だからこそ、勉強する場合の放課後は有意義に塾や予備校に通うのだろう。
 桂木は……まず年齢的問題で塾などに行けるかが怪しい。それなのに正直今から準備しないと赤点回避が不可能な上、一人で勉強できるほど中身を理解してない残念さだから、勉強する際も付き添い必須。
 とはいえ勉強教えるんなら俺もついでに復習したい。だからこそ勉強用の資料には困らない図書室というわけだった。
「いっぺーくん」
「どした?」
「この字はなんて読むの」
 桂木さんよ、国語じゃねーのにその質問はどうかと思うんだが。
 これがまぁ歴史ならばまだかろうじてわかるんだが(特に日本史の人名な)、桂木が持っているのはまさかの数学である。そう、文章題の説明の一文字を指しておられる。
 本当よく高校通えてるよな……と、思うんだが、授業は全部真面目に受けているのを知っているので、からかう気も起きない。とりあえず差し出されてる教科書を受け取って、俺は黙ってフリガナを書き込んだ。
「ありがとー」
 ふにょりと笑ってまた問題とのにらめっこに戻る桂木。
 本人も、自分の学力が相当残念であることは理解していて、さらに言えばコミュ力MAXであるが故に、普通の相手に勉強に付き合ってもらうとかなりの確率で迷惑をかけることまで理解している。
 それこそが桂木の大変そうな所で、こいつが自分から勉強に誘える相手が俺以外にまだいない。
 声をかければ教えてあげるよーと名乗り出る相手は多いだろうにな。事情を知っている俺以外に、本気で頼れる相手がいないらしい。
 難儀なことである。
(…………?)
 問題とにらめっこしつつもシャーペンは全く動いてない桂木をぼんやり眺めていると、妙に視線を感じる。
 自意識過剰、という方向で昔なら一蹴するんだが、今現在は桂木という自動視線収集体(=年齢不詳超イケメン)がそばにいるので、あぁこりゃこいつへの視線だろうなぁと一蹴が出来る。
 なお桂木の方は視線を集めるのが普通過ぎるのか、普段からこういうのはあまり気にしない(気づいてはいるらしい)ので、今も勉強にお熱だ。
 さて今回はどこのお嬢さんだろうね、と何となく視線をやった俺は。
「————っ」
「ん?」
 見覚えのある相手が頬を染めつつ本の後ろに隠れたのを見つけてしまい、首を傾げた。
 いや普通に考えて、熱い視線を送ってた子が、本人でなくともそばにいる誰かに見つかってしまったのに気づいてこういう反応をするというのは珍しくはない筈だ。漫画やアニメなんかではよく出てくる場面っていうか、そんな感じなので、身近ではないけど不思議に思う必要はない。
 ない……筈なのだ。
 それが、お嬢さん、ならなぁ……。
「どした? 山田」
「あぁ、うん、ちょっと知り合いが」
 何をしてるんだろう、と気になって立ち上がってしまった俺は。
 この時の己の行動の迂闊さを後で悔やむことになる。
 後悔先に立たず。
 仕方ないだろ俺は未来なんて見えないんだから。




『変態紳士3原則 その1:さわらない』
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