スポーツテスト

文字数 1,612文字

 中間試験の前にやってくるもの。
 毎度その意味がわからないもの。
 学年合同でのスポーツテスト。
 俺は入学して初めてのそれを前にして、内心ちょっと心配していた。
 言うまでもない、頭脳は子供体は大人な桂木のせいである。
 いくらあいつが中身残念で周囲と余裕で溶け込むようなコミュ力ある、俺よりもリア充な高校生をしていようとも、中身はアレだ……全く高校生じゃない訳だよな。奴とほぼ同じ歳の従兄弟のおじさんがいるんだけど、会う度に年取った、昔みたいに動けねーって言っている。
 つまり見た目爽やかで運動もそつなくこなしそうな桂木も、スポーツテストでは醜態を晒したりしないだろうか、っていう。
 わかってる余計なお世話だ。
 仮にスポーツダメだろうと、桂木ならそこも含めキャーキャー言われるスペックはあるだろう。知ってる。
 だが現状に対し、いつ何時誰からどう疑惑を持たれるかわからないことを思えば、隙は少ない方がいいだろ?
 本当は事前に授業とかで分かればよかったんだけども……運悪く、俺らのクラスの体育の先生はやる気がない方らしく、今日までの2回の授業は両方自習という名の放置である。先生は一応体育館の隅で見てはいるんだけど、何かやってる限り何も言われない。
 体育って普通毎回何か指示される授業じゃなかったっけ、なんて俺たちも思いつつ、ゆる〜くバスケをしてたのが悪かった。
 しかも毎度じゃんけんに負けて桂木は得点係というオチだ。
 というわけで、今日まで俺は奴の身体能力なんて知る機会はなかった。
「おい桂木さんよ」
「何〜? あ、山田何から回る? 俺どれから回っていいか全然わかんなくてさぁ。ついてっていい?」
「そりゃ構わんのだが、自信のほどはどんな感じだね」
 内心ハラハラしながら尋ねた俺に、桂木はキラッキラの笑顔で答えてくれる。
「最近さー、昔みたいに」
「ストオオオオオオオッップゥゥゥゥゥ!!!!」
 どっかで聞いた事ある台詞を言おうとしてたその口に、測定結果を書く用紙をばしん、と叩きつける。
 本当危機感ってもんないのかお前!
 ないわけないんだろうけどアレか、アホの子だから忘れるんか!?
「ハッハッハー何を仰るかね我らはピッチピチな高校生だぜオーケイ?」
「オッケーオッケー?」
 はい疑問系だね何もオッケーしてねーなこいつ。
 最近はかなり遠慮がなくなった俺に対して、全然気にしてないらしく「いっぺーちゃん乱暴」とかブツブツ言ってる桂木を見ながら俺は思う。
 こりゃ目を離したら何を言うか分かんねぇ。今日は最後まで一緒に回る以外にないな。わかってたけど。
 まぁ、友人同士で一緒に回るなんて珍しくも何ともない。現に、うちのクラスの奴らはすでにグループに分かれ始めてる。一部が桂木を入れたそうにこっちをチラッチラ見てるが……悪いな今日は諦めてくれ。こいつが若者らしからぬ記録を出した時にお前らじゃフォローはできないだろ。
「とりあえず近いとこから回るぞ」
「おー!」
 結局、カモの子よろしく俺の後ろをついてくる桂木を引き連れスポーツテストを回った結果。





「どうなってんのお前の体力」
「いっぺーちゃん、人生は金の力で大部分が何とかなるんだよ?」
「つまり?」
「ジム通ってます」
「マジか」
「っていうかね、高校入ったって言ったら、高校生らしい程度には運動できないとまずいだろって周りに言われてさぁ、それから知り合いのジムのオーナーさんに毎週鍛えられててね」
「じゃあ昔みたいに〜ってのはどういう意味だ」
「え? あぁさっきの? 昔みたいに動けるようになったっていう」
「あー……(でもそれも高校生がいう発言じゃねーな)」
「俺も一応頑張ってるんだよ!」
「で。なんでジム通ってて、砲丸投げだけこの成績なの」
「だってジムにボールは無いからね」
「にしたってお前。1メートルって! 小学生ですらもうちょっといくぞ!?」
「いやー、肩の衰えってすごいね?」
「絶対問題はそこじゃ無い……」
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