白ごはんの上の梅干し

文字数 1,152文字

 
 白ごはんの上の梅干し


 大学生の頃、お昼には自分で作ったお弁当だった。人よりも食べる量が多い私のお弁当箱はかなりの大きさで、一般の人が単体で使うであろう一段弁当箱におかずをぎっしりと詰め、それはだいたい、生姜焼きだったり中華炒めだったりと量、内容ともにダイナミックなものだった。お弁当のおかずで定番のタコさんウィンナーや可愛らしいピンに刺さったうずらの卵などは入れた記憶がない。もっとも、うずらの卵は大好物なのだが。

 おかずよりも一回りほど小さい別のお弁当箱には白いごはんをこれまたぎっしりと詰め、詰めすぎのあまり米の上部はいつも真っ平であった。「ふっくら」の形容がお似合いの白米とは程遠い。入るものはとりあえず入れようという、詰め放題のときに発揮すべき精神を私は常に持ち合わせていたように思う。そんな重量感たっぷりのお弁当を何に入れて運ぶかというと、お弁当箱とセットで販売されている巾着袋や手提げに到底入るはずはなく、「セカンドバック」として使われているものに収めていた。

 女子大学生のセカンドバックといえば、手頃な価格で買える人気ブランドのリボンや花モチーフのものを想像するが、私はそれに負けず劣らずの、犬がスヤスヤと眠っている可愛らしいものを愛用していた。(私は持ち物や私服が人と被ることをひどく嫌っており、人気ブランドのものは是が非でも持たなかった。)

 はたから見れば「あら、可愛らしい」と思うような犬が描かれたセカンドバッグの中に、実は並みの人の倍以上もの量のお弁当が入っていようとは、誰も想像しなかっただろう。中身を知っていたのは、数少ない私の友人2人くらいだった。

 真っ平に潰れた白ごはんの上に乗っていたのは、だいたい決まって梅干しだった。夏の暑い時期には特に、塩分も取れさっぱりとし、なかなかに美味だった。シンプルな美味であった。日本に生まれてきて良かったと思える数ある要因のひとつ、梅干しと白米のコンビは、その主力たるメンバーの一員だと認識している。ここで重要なのは、梅干しを白米の上のどこに乗せるかということだ。友人との会話を、その情景までをも、今でも鮮明に覚えている。

 「お弁当の梅干し、なんで真ん中じゃなくてちょっとずれたところにあるの?」
 私の答えは一択で、
 「梅干しを真ん中に置くと、日の丸弁当みたいになるから」だ。

 「気にしすぎ~!」と笑われた瞬間私は、“ああ、平和な時代に生きているのだな”としみじみ思い、感慨にふけってしまった。

 白いお米をぎっしりと詰められる幸せ、好きなときに好きなだけ好きなものを食べられる幸せ、誰かと一緒にゆっくり食事ができる幸せ。そういう当たり前になっていることがどれだけ恵まれているのか、友人の言葉ではっと気づいた大学一年生の初夏の頃だった。



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