第4話 火守り

文字数 1,336文字

 夏といえば合宿。そして合宿と言えばキャンプファイヤーだろう。
これは一般的なのかどうかわからないが、実はキャンプファイヤーには、火の神様からキャンプファイヤーに火を点ける重要な使命を任される者たちが存在する。

 その名は「火守り」という。私は、70名ほどの生徒の中から4名に選ばれる火守りに指名され、火の神様からキャンプファイヤーの聖火を松明に譲り受け、キャンプファイヤーに点火するというとても名誉な役割を全うするはずだった。
 奇妙といえば奇妙だと当時から思っていたが、運動会も然り、キャンプファイヤーも然り、当日までにしっかりとパフォーマンスとしての練習を重ねる。
 だからこの時も私は合宿当日まで毎日のように、体育館で火の神様から松明に火を譲り受ける練習をしていた。
 火の神様の前に跪き、松明に火を譲り受けて、4人とも火を譲り受けたら、一斉にキャンプファイヤーに点火する。
 その瞬間をイメージしながら、めちゃめちゃカッコいいであろう自分の姿も想像して、妄想を膨らませていた。

 ところが、そうなるはずだった合宿当日は大雨になってしまった。当然、屋外でのキャンプファイヤーは出来なくなった。
 その場合どうなるかと言うと、室内でのキャンドルサービスに変更となる。
 キャンドルサービスは、参加者一人一人が一本ずつ蝋燭を持ち、全員の蝋燭に火が点火したら、その蝋燭達を会場の中央にある大きな燭台に全員分を挿して、大きなキャンドルライトを作る、室内版キャンプファイヤーだ。

 火の神様に扮した校長先生が入場してくる。その姿がまるで半分は神様に見えたが、もう半分が丑の刻参りをする者のようにも見えてしまって、危うく吹き出しそうになった。
 火の神様は松明の代わりに、大きな蝋燭を持って入場してくる。
 私達火守りもやはり松明の代わりに蝋燭を手に持ち、順番に神様の前に跪いて蝋燭の火を譲り受けた。
 そして、参加者一人一人の蝋燭には一体誰が火を灯すのか。
 そう、その役割を担うのが私達火守りだったのだ。
 70人あまりの参加者を4分の1ずつ担当するわけだから、一人当たり18人くらい。
 火の神様から火を譲り受けた時と同じようにして、火守りは参加者一人一人の前に跪き、1人ずつに蝋燭の火を分け与えて行く。
 これが地獄だった。なぜなら、火守りは参加者の前に跪き、参加者がちょうど蝋燭を持っている手の高さに火が来るようにするわけだが、
参加者に火を与える際に、火守り自身の蝋燭を傾けてしまうと神様から譲り受けた火が消えてしまう可能性が高くなる。
 なので、火守り自身は自分の蝋燭をまっすぐ立てて持ったまま、参加者が火をもらってくれるのを待つしかないのだった。
 当然、蝋燭は溶けてくる。まっすぐに持ったままの蝋燭からは時折蝋が手の上に垂れて熱い思いをした。
 それでも火の神様の炎が消えてしまうといけない。その一心で私は、一人一人の前に跪き、無事に自分の担当分の全員に火の神様の火を分け与える任務を完了した。
 キャンプファイヤーと比べ物にならない程、これは大変で、つまり雨が降った時点で火守りの役目は華々しくカッコいいものから苦行を強いられるものへと化してしまったのだ。だが、これはこれでとても良い思い出になった。


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