推しのいるオタクはダイエット強者!

文字数 4,166文字

 父の介助・看護も、彼の死により終止符が打たれ、自身のメンテナンス期間に入りました。小中学生で祖母のヤングケアラー、20代で父がガンと、おそらく人生の一番いい時間を病院や検査棟で過ごす羽目になった、そんなわたくしの趣味のひとつは、神社仏閣めぐりです。
 自分自身も喘息やら難聴やらの不具合を抱えつつ折を見て、他県へ越境しては、あちらの神社、こちらの寺へと参詣し。
 神社やお寺というものは大抵、山の上、または交通の不便な場所にあるもので、自分の足で行こうとすれば体力もつきますし、腹も減ります。そして、神社仏閣のある土地は大抵、名物があり、名物を食べれば体重は増え、体重が増えれば食べる量も、また……。
 そこへ、あの忌まわしきコロナ禍がやってまいりました。
 あれもダメ、これもダメ。越境ダメ、人が集まる所へ行っちゃダメ!
 当然、神社仏閣の参詣もご遠慮ください、となります。こうして、わたくしの神社仏閣参詣セラピーは、コロナという病禍に邪魔されてしまったのです。
 そして始まる、体重増加。もはや隠すこともないので申し上げますが、わたくしは中学生のころから、およそ54㎏前後の体重をキープしておりました。一時期、病魔に冒されるなどで激減しましたが、健康時は間違いなく54㎏でした。
 が――神社仏閣めぐり(登山もしく長距離移動)を通して、体力増進、筋力増進、食欲増進していた結果と、コロナ自粛も相まっての、相乗効果の末の……

 62㎏

 体重計に燦然と、輝いて欲しくなかった数字……62㎏。
 わたくしが高身長女子ならよろしかったのですが、なにぶんヤングケアラー、子供の頃から、祖母を風呂に入れたりなんなりとやっていたせいで腰痛をわずらい、身長は伸びておりません。低身長です。はっきり言って154㎝です。154㎝で62㎏は、健康的を通り越し、BMIさんとやらに「あなた、ちょっと太ってますね」と言われるレベルです。
 見たくなかった、こんな体重。いや、今まで目をそらしていたのですが、年に一回の集団検診さんが、わたくしに、しかと現実を見せてきたのです。
 62㎏は、まずい。せめて54㎏には戻さないと。健康にも良くないし(血液検査で引っかかった)、着られる服とデザインが限定されてしまう。そして、体型を隠すため、ダボダボの服を着てしまえば、その結果さらに体がデカく見えること請け合い。

 痩せなきゃ!
 とにかく痩せねばと最初にチャレンジしたのは、脂肪燃焼スープダイエットというものです。
 結果としては、ダメでした。
 脂肪燃焼スープダイエット、効果の真偽はともかくとして、まず材料にある、ザク切りのキャベツ、ピーマン、セロリ、トマトといった野菜が苦手なのです。調理法的に、別の味でごまかすことも許されないスープダイエット。最初のうちは野菜を噛まず、丸呑みするよう、ごっくんと呑み込んでいたのですが、ものの二週間で諦めました。あのまま一ヶ月続けていたら、わたくしは発狂して、セロリと釘を持って、夜中に丑の刻参りしかねないくらい、セロリを憎悪したことでしょう。

 そして一度、ダイエットをぶん投げたのです。
 その昔、わたくしは病魔により、二週間以上、固形物が呑み込めず、水を飲んでも鼻から噴出するという飢餓の危機に瀕したことがございます。その際に思ったことは「食べ物が目の前にあって食べられない、飲めないのは、とっても悲しい!」。
 要するにダイエットしようと思っていても、過去の体験的に「好きなものを我慢したくない、食べられる時にごはんは食べておけ!」というポリシーが胃に染みついてしまったのです。
 そして、巡る季節、ふたたびやって来た集団検診。

 59㎏

 ……前年よりは食事に気をつけたにしても……かつての栄光、54㎏には、ほど遠い。
 やばいなあ、まずいなあ、と思いつつも、絶食だけはイヤな人間です。
 そして、どうしたものか、どうしたものかと内心、悶々としていたとき、わたくしはついに出会ってしまったのです。

 2.5次元ミュージカル、2.5次元舞台に!

 おい、ダイエットの話はどうした、というツッコミは、少しお待ちください。
 ――さて、2.5次元というのは、小説やアニメやゲームのキャラクターを生身の人間が演じる舞台、ミュージカルの総称・略称です。
 少し前、わたくしは、とある漫画にハマってしまい、「へー、これも舞台化するのね。でも、キャラクターも戦闘シーンも生身での再現は無理じゃないかな」と思っていたのです。
 が、殺陣は素晴らしく、演出のおかげで戦闘シーンは脳内補正もかかって大興奮の出来。
 何より、キャラクターの再現度が……再現度が……。
 そも漫画やアニメのキャラクターは、空想上のものですから、生身の人間が完璧に再現できるものではありません。7頭身、8頭身、股下1メートルの人物が普通に闊歩しているのが、2次元です。
 しかし、さすが2.5次元俳優さん。手足なっが! 腰ほっそ! 顔が美形! 何コレ、漫画かな? と疑うレベルの再現度です。コロナ禍により、舞台は動画サイトにて中継されており、わたくしは、それを視聴していたのですが「次があるなら、実物を! ナマで見たい!」という欲求がかき立てられるほどに素晴らしいステージでした。
 時おいての次回作の発表、そして、はじまる地獄のチケット争奪戦。
 その地獄のような、チケット争奪戦やら抽選やらに打ち勝ち、「やったー! これで、生身の××くんや○○ちゃんに会えるぞ!」と快哉の声をあげ、大好きな二人に会うために、服を新調しようかしらと思った矢先、
「……こんな、太った自分のままで、二人に会いに行くの?」
 何故か、そんな声が脳内に響いたのです。
 ××くんも、○○ちゃんも、あんなに素敵で、格好よくて、カワイイのに。
 今の自分のままでいいの? いや、大勢いるお客さんの一人だし、二人はもちろん、こちらを一瞥することもないだろう、記憶するわけないだろう。そんなことは、わかっている……わかっているけれど、でも……。
 そして、強い強い、強固な決意が生まれたのです。
「舞台公演の日までに、二人に恥ずかしくない姿で会いたい!」
 この決意に動かされ、ふたたびダイエットにチャレンジすることになりました(『おい、ダイエットの話はどうした』というツッコミしてくださった方、大変お待たせいたしました)。

 実行したのは、以下①~⑦です。
①ほったらかしにしてあったエアロバイクやEMSを起床後すぐに使用すること
②週1回は、遠赤外線サウナに行くこと
③朝食はソイプロテイン1杯と、芋ようかんや水饅頭などの和菓子ひとつ
④昼食は基本的に自由!だが、できる限り肉は避けること
⑤夕食は、焼いたイングリッシュマフィンにカッテージチーズとサーモンの切り身2枚を挟んだもの
⑥お菓子は基本ナシ、空腹時は冷凍フルーツ(ブルーベリー)や無糖の炭酸水を飲む
⑦これらの食事のおおまかなカロリー計算と体重の測定は毎日やること

 ①は体調が悪い日以外は続けました。起床直後にすることで、後回しのサボリ癖を回避しています。
 ②は、新陳代謝をよくして、もともと低い平熱を上げ、脂肪の燃焼をしやすくするためです。
 ③は、ザバスのミルクティーやココア味、チョコレート味を、水もしくは無糖の紅茶やコーヒーで割って飲んでいました。自分はホエイプロテインは合わなかったのでソイですが、これは人それぞれかと思います。
 ④スープダイエット経験により、まずいものは食べたくない、マンネリは避けたいという気持ちがあり、他のダイエットでいうところのチートデイ(なんでも好きなものを食べて良い)のようなものです。③と⑤のカロリーは必ず決まっているので、昼食はカロリー内なら何でも自由ですが、肉が食べたい時には、大豆ミートやチキンを食しております。
 ⑤栄養素的に、このメニューに意味はありません。強いて言うなら、前述した二週間飲食不可期間後、最初に口にしたのがパスコのイングリッシュマフィンで、自分にとって飢餓から解放してくれた神の食物です。そして、カッテージチーズとサーモンの切り身をはさむと、なんとなくハンバーガー的な見た目になるので、ジャンクフード欲が抑えられます。
 ⑥ウィルキンソンと冷凍ブルーベリーで、おやつ欲をごまかす。
 ⑦つまり、レコードダイエットです。レコードタイエットアプリは色々ありますが、様々試した結果、自分はコナミさんのカロリDietを使用し続けています。ゲーム好き女子さんなら、ご存じの「ときめきメモリアル」と同じような絵柄なので、なんとなく自分自身に「今日は運動コマンド!」とやっているような気分になれます。
 ※①~⑦に具体的な製品名などが書いてありますが、案件ではありません。

 レコードダイエットなので、およそ体重の推移はわかります。すべての数字を書くと、キリがないので、二週間毎の体重を載せておきましょう。

6/14 60㎏ 6/28 59.8㎏
7/12 58㎏ 7/26 56.6㎏
8/9 55.2㎏ 8/23 53.7㎏
9/6 53.2㎏ 9/20 51.8㎏
10/4 51.1㎏ 10/18 50.1㎏
11/1 50.2㎏ 11/15 49.5㎏ 11/29 48.6㎏ 
12/13 47.6㎏ 12/27 47.4㎏

 一ヶ月で、もと体重の5%減なら、無理のないダイエットの範疇だそうです。つまり自分の場合、一ヶ月で3㎏減なら、無理のないペースだったと考えられます。
 食事制限系ダイエットはリバウンドしやすいので、これからお試しになる方は、その点を注意してくださいね。とはいえ、半年も続けていますと体質や意識がだいぶ変わるので、いきなり暴飲暴食に戻ったりしないと思います。すくなくとも、自分はそうでした。

 ――実を言いますと、ダイエットのモチベーションとなっていた2.5次元の舞台は、コロナにより公演中止となり、自分のチケットも返金扱いとなりました。
 非常に残念でしたが、それでヘコんだのは一時のこと。
「二人に会えなくて残念だけど、ここまでやったからには、二人に恥ずかしくない姿になる!」と体重のコントロールは続行中です。推しのいるオタクはダイエット強者ですよ!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み