委任状の日

文字数 846文字

 筆者の家族は、母一人のみである。
 その母が入院した。
 諸々手続きがあり、引き継ぎなしに母の事務作業等を引き継いだものだから、マニュアルなんてものもなく一件、一件を調査し、関係各所に二度も三度も電話をかけ、自分の愚かさ・情けなさを痛感する毎日である。そして、母は計算には強かったが、整理整頓と字は下手だなあと、山積みの封筒と判読が難解な文書を前に、半ベソをかく始末だ。
 母の件で、役所や銀行などに赴くと毎度、毎度、家族か否かを確認されるのは、まったくかまわないのだが、たまに「これこれのケースの場合になった際には、御本人さまから代理人としての署名を~委任状を~」と言われることがある。
 これが少し引っかかるのだ。無論、本人にとって大事な案件や資産なのだから、まず本人の意向を確認するのは当然だ。自分の預かり知らぬ時、場所、他人に、たとえ家族であっても好き勝手されるのは困る。当然のことだ。
 が、これが、本人が病気で入院していたり、手足を折っていて、代理人の任命やら署名やらができない場合は、一体どうするのだろうと訊ねてみれば、係の人はだんまりになってしまった。
 筆者は別に、公務員や銀行員を責めているわけではない。自分も一時期、そちらの立場に立ったことがあるので、もと同輩としては内心『そりゃ上の人が決めてくれなきゃ、下はなんにも話せないよね』と同情の念はある。
 窓口や受付に立ち、一般人の矢面に立つ公務員や銀行員は、明文化していないことを話せないし、無責任に大丈夫ですよ、なんて言えない。筆者は昔、先輩から「職務上『大丈夫ですよ』という言葉を使ってはいけない」と口酸っぱく言われたものだから、現場から離れた後すら『大丈夫』という言葉に恐れおののいているくらいだ。
 ただまあ、日本国は現状、ご年配の方が増え、子供はそう増えておらず、結婚は義務でもない。
 つまるところ、おひとりさまも増えていることだし、もう少し代理人やら、保証人やら、委任状のシステム、もっと易しく、優しくしてくれませんかね。
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