トラウマ湯たんぽドラマ

文字数 1,359文字

 冬です。大寒波です。
 みなさま、寒い夜、寝る準備はどのようにしてらっしゃいますか?
 重ね着、空調、電気毛布に湯たんぽ。猫と寝る。色々な対策がありますね。
 わたくしめは、ついに湯たんぽを解禁いたしました。かわいらしい動物のカバーがついた、電気で充電する蓄熱なんたら湯たんぽという製品を、このたび通販で購入したのでございます。
 湯たんぽごとき何かちょっと大げさな報告だな、と思われるやも知れませんが、わたくしにとっては中々の、数年ぶりのおおごとでございました。
 個人的に、湯たんぽにはトラウマがあるのです。
 いつぞやの冬季オリンピックの年、その開催期間中。肺炎を一ヶ月こじらせた後、さらに長い間、寝たきり生活を送っておりました。療養生活終盤には記憶混濁で、うっかり外に出た後に帰る場所がわからなくなるという……きみ、高熱で記憶が溶けたか?と言われるような有様です。
 そんな、よれよれしおしお寝たきり生活の相棒は、湯たんぽでした。わたくし個人が相棒に任命したわけでなく、ひたすら看護側の気遣いだったのですが――

 冬の湯たんぽ。当然ですね。寒いですし、病人ですから。
 春の湯たんぽ。まあ、寒の戻りのような日もありました。
 夏の湯たんぽ。……冷房かけながら湯たんぽとか、もう勘弁してください!

 四六時中、ほぼ1年近く、湯たんぽが常に足元にあったので、正直なところ「きみの顔、もう見たくないんだけど?」と恋愛ドラマのようなセリフを吐きたくなるくらい、湯たんぽにはウンザリしていたのです。
 あの金属製の、分厚い袋に包まれた――そして、布団やら自分の体臭やらがしみついて、布団が暖まるたびに、そこはかとなく匂う異臭。闘病時代のしんどい体の記憶。それらのトラウマが湯たんぽを見るたびに思い起こされるため、ここ数年は、徹底的に湯たんぽさんを無視し続けたのです。

 ――が、しかし、この大寒波。
 電気代、ガス代、灯油代。ランニングコスト、節約うんぬんかんぬん。
 平熱35℃~36℃あたりをうろついていた低温人類は、ついに「寒くて耐えられない>湯たんぽのトラウマ」の意識に到達し、しかしながら「……ズボラだからいちいち湯を沸かすの面倒だし、金属製の湯たんぽは本当にトラウマだから、せめてカワイイ動物カバーを」と考えた末、動物カバー付き蓄熱湯たんぽの購入にいたったのです。
 レンジでチンする系の湯たんぽも考えたのですが「温め時間を間違えたら爆発しそうで怖い」という恐怖心により蓄熱型を採用、購入。
 実際の使用感は、と申しますと、わたくしが購入した製品は「――えーと、まあ、5時間くらいは暖かかった気がする。充電中、ビックリするくらい中身が膨らむから……これはこれで怖いかな?」という感じです。いやもう、フグかきみ、と言いたくなるくらい充電前と後で、大きさが違っていました。
 さて、今日も寝る準備をしつつ、充電器を蓄熱湯たんぽに取り付け、じーっと銀色の袋を眺める夜です。ほかほか、ふっくらしたところで、動物さんカバーのなかにin。
「……こっちは足元にあるから動物カバーとかあまり関係なかったかも。こっちの抱き枕式は朝、目が覚めたら目の前にあるわけだから動物カバーで正解、だったは、ず……?」と少々首をひねりながら、ここ数日、布団に潜っております。
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