第2話

文字数 1,080文字

昼食を済ませて外に飛び出すと、朝方の雨がウソの様に上がり、夏の陽射し
がジリジリと肌を射す。あたり一面から土の匂いが立つている。
哲也との待ち合わせはいつもの郵便局前だ。
僕らの住む町は、地方の田舎町とは言わないが、田舎に隣接する新興住宅地と
いったところだろう。
バスに乗り15分も走れば、緑の多い山間の景色が拡がるような所だ。

僕らは郵便局前のバス停で落ち合うと町営プールまで徒歩で向かう。
歩いて15分程度の距離だ。
歩き始めると哲也が口を開く「壮太、夏休みの宿題、進んでる?」
「まあまあ、かな?」
正直なところ、休みも半分を過ぎて、与えられたプリントと提出物にひと通り手を付けている程度だ。とは言うものの、受験を控えた中学3年生の夏休みの宿題はそれ程多くはない。問題は自由研究の発表だ。
「俺も同じかな。自由研究は何をやるの?」
「それなんだけど、まだ何にも手をつけてないし、決めてないんだ。哲也はどう。」
「俺?・・・・同じくだよ。」
「昨日の夜も、布団に入ってから考えてたら夢にまで出て来たよ。」
「じゃあさあ、二人でアイデア出して一緒にやらないか?」
「いいね!それ」
「二人でやれば何とかなるんじゃない!」
「共同研究ってやつだね。いいね決まりだ。これで今日はゆっくり眠れるよ」

夏休みのプールは大盛況で、入り口には小さなテントを張った屋台まで出ていた。中では小さい子供達の叫び声と水に反射する光の粒が溢れている。
昨夜から自由研究の課題の事が頭から離れなかった僕は、哲也のお陰で安心しきってしまい、まだ何も決まって無い事など気にも留めず、たっぷり3時間
プールの水の中ではしゃいで過ごしていた。

その帰り道、哲也はふと我に返った様子で「さっきの話の続きだけどさぁー」
「突然、どうしたんだよ。どの話の続き?」
「自由研究のテーマだよ」
「あー、そうだね。どうしようか?」
「俺、思ったんだけど・・」
「うん」
「父ちゃんに聞いた話なんだけども、北山の向こうに大きなダムがあるのは知てるだろう・・・」
「うん、知てるよ」
「あのダムの底には昔、町があって沢山の人が住んでいたんだって。
今でも水が少なくなると、底に沈んだ建物が現れるらしいんだ。」
「すげー、ミステリアス!」
僕はテレビで見た、アトランティスやムー大陸を想像した。
「どう、行ってみない?」
「凄く面白そう、行きたい!決まり。自由研究のテーマはそれだ。」
二人して夢中で話しているうちに、郵便局まで戻っている。
家につく頃には、プールで濡れた髪の毛もすっかり乾いていた。
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