筆一つ
文字数 584文字
「過去に頂いた手紙で、目に触れるだけでも辛くなってしまうような手紙はありませんか?」
そんなメッセージが、遠方に暮らす友人からのメールに含まれていた。
なんでも、心身ともに身軽になって、変化を選ぶことが大事であるということがメッセージの核心のようである。
「ああ、確かにあるね」
それを行うことで何が利点なのかと尋ねられれば、確かな裏付けのある回答が其処にある訳ではない。それでも僕のインスピレーションは、このメッセージを直ぐにキャッチし、委ねてみることに決めた。
このような局面になって改めて思うことは、手紙というものは偽りなく書き手の魂を映し出しているということだ。
言葉の組み立て方、抑揚の潜ませ方はもちろん、筆記具の走らせ方、便箋の使い方まで、其処にどのような装いが施されても、根ざしている筆主の人間性を隠すことはできない。
処分するための袋に入れたのは、封書の手紙のほか、ハガキ、グリーティングカードなど、それなりの数があった。中には、つい先日届いたばかりの手紙も含まれている。
処分した時に思った。
手紙は怖い。筆一つで、拷問の果てまで落とし込むことができるから。
だから、すぐに我が身にふり返る。
「お前は筆に誠実でいられるか」
その問いに対する誓いを怠ることはできないという学びを得ることができた時、友人のメッセージをキャッチできた意味を知ることができた。