Scene7

文字数 721文字

 えっ?
 今、何と言ったのだろう。
 確か、貴方とお付き合い……。
 ちょっと待て、貴方とは僕のことを言っているのか?
 いや! それはないだろう。図々しいぞ自分!
 混乱する頭の中を整理するために、とにかく彼女に確認しよう。
「お付き合いって、僕とですか?」
 上ずった僕の声が周りに反響しているせいだろう、彼女はやや頬を赤らめて頷く。
「店長さんに聞いたら、誰か特定の女性はいないようだと……」
 店長め! 僕の知らないところで、あれこれと情報をばらまいていたのか。ひとの個人情報を軽々しく吹聴しないでほしい。
「どうして僕なんですか? 貴女のような綺麗な人に、僕なんて似合いませんよ」
 謙遜しているつもりだが、もしかしたら卑屈に聞こえただろうか。でも、僕の心情を分かってもらうしかない。
「綺麗だなんて……。貴方の手の方がずっと綺麗です!」
 彼女は弾かれたように僕に訴えた。

 はぁ? て?
 キョトンとした僕に向かって、彼女は堰を切るように話し出した。
「貴方の綺麗な手に惹かれてしまったんです。それで、ずっとお店に通っていました。私……、手フェチなんです」
 彼女は恥ずかしそうに俯いた。
 てふぇち?
 初めて聞く言葉と初めて綺麗と言われたことで、僕の頭の中はますます混乱していた。
 彼女の説明によると、綺麗な手、ゴツゴツした手、いろんな手のタイプを好む人達がいるらしい。
 彼女の場合、男の綺麗な手が好きなのだとか。
 休憩するためにたまたま入った喫茶店で、僕の手を見た瞬間、一目惚れしてしまったのだと言う。
「コーヒーを淹れたり、カップを用意したり、貴方の綺麗な手が動く度にドキドキ、ワクワクしてたんです。変な女だと思われたらショックだから、話かけられなくて……」
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