Scene1

文字数 399文字

 カラン、カラン。
 喫茶店の扉が開く音と共に、カツっとヒールの音が響く。
 彼女だ。
 扉を背にして作業をしていても、その足音ですぐ分かる。
 僕はすぐに振り向いて笑顔を向ける。
「いらっしゃいませ」
 ひと月ほど前から店に来るようになった彼女は、いつも平日の午後7時過ぎにやってくる。
 こちらが席を勧める前に、いつも決まったカウンター席に陣取る。
 左端から二つ目の席が彼女の定位置だ。
 歳はアラサーといったところか、巻き毛のセミロングが肩の辺りで揺れている。
 意思の強さを感じる美しい瞳に、キリッと締まった赤い唇。人を魅了するタイプの女性だ。その姿は出来る女、キャリアウーマンを連想させる。
 誰かを待つ様子もなく、ゆっくりと店内でくつろぎながらコーヒーを楽しむ。
 他の客の様子や、僕を含むスタッフの様子を眺めて楽しんでいる感じもする。
 そして一息着いた後
「ごちそうさま」
 魅力的な微笑みを向けて帰っていく。

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