Scene2

文字数 709文字

 彼女はいつもブレンドコーヒーをオーダーする。
 手頃な値段とそこそこの味に満足しているのか、他の豆のことを聞かれたことはない。
 今夜は、珍しくスコーンも一緒にオーダーしてきた。
 僕が注文伝票を書いている手元をじっと見ている。
 そんなに心配しなくても、オーダーミスはしないから安心して。心の中で呟いた。
 スコーンを温めて皿にのせる。
 トレイにシロップのピッチャーと、スコーンの皿をセットする。
 さっきから気になっているのだが、僕が作業をしている様子を彼女はずっと見ている。
 別に自意識過剰になっているわけでも、自惚れているわけでもない。
 僕はどこからどう見ても、イケメンではないことは自覚している。
 ヒョロっとした頼りない体つきも相まって、一見して冴えない三十代の独身男だ。
 そんなパッとしない男を、まじまじと見る女性はいないだろう。だから余計に気になるのだ。
 僕の手つきが危なかしいと思っているのか?
 それとも彼女の口に入るものを、僕が雑に扱っていないか監視しているのか?
 その本意は分からない。後々クレームとなってやってくるのなら、そのときに受けて立とう。
 用意のできたトレイを彼女の席に運んだ。
 テーブルにトレイを置いたとき、彼女の手と僕の手が一瞬触れあった。
 すると彼女は弾かれたようにビクッと手を引っ込めた。
 そんなにあからさまに嫌がる反応をされるとこちらも傷つく。
 これもやはり、クレーム対象の案件だろうか?
 今まで男性と手をつないだことくらいあるだろう。
 これくらいのことで、嫌悪感を抱かせてしまったのか。
 それとも単純に、キモイ奴の手に触れちゃったよと思ったのか?
 もしそうだったら、僕のほうが不愉快だ。
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