第5話 幽霊と宇宙人

文字数 1,664文字

 小学生の時、冬の早朝に、学校に行ったことがある。

 目的は天文部の一員として、望遠鏡で土星を観測するためだった。寒かったので、マフラーや手袋など、防寒対策は完璧にした。参加者は10人ぐらいだった。

 天体観測をするのだから、早朝とはいえ真っ暗である。4時か5時の集合だったと思う。校舎の屋上に上がり、先生が設置してくれた望遠鏡を代わる代わる覗き込んだ。

 ああ、土星には本当に輪がついているんだ、と確認して感銘を受けたものだ。

 だけど、もっとインパクトがあったのはUFOの目撃である。
 なだらかな山の稜線が校庭から望めるのだが、明らかに星や飛行機ではない光が動き回っていたのである。昔の話だから、ドローンや電飾凧などではないと思う。その光は山の周囲を飛び回っていたが、やがて消えてしまった。

 当時、UFOは大流行していた。UFOを目撃すると急激に背が伸びる、という噂もあった。本当に背が伸びたらテレビで取り上げられるかもと、僕たちは大はしゃぎだった。

 理科準備室に望遠鏡を片付けると、僕たちは解散した。平日なので一旦家に帰り朝食をとってから、また登校するのである。今の小学校ではそんなことはしないだろうが、当時は大らかな時代だったのだ。

 だが、その後、UFOよりインパクトのある出来事が待っていた。

 僕を含む一部の生徒は、素直に帰らなかった。いつもとは異なる真っ暗な学校の中を探検したくなっていた。つまり、季節外れの肝試しである。

 僕たちは懐中電灯を手に、ワクワクしながら廊下を歩いた。見慣れた教室が廃墟みたいだった。全然ちがったものに見える。それだけでも不気味なのに、背筋が凍るような出来事があった。

 最初は、かすかな物音だった。僕たちの後ろには誰もいないのにペタペタという足音がしたり、風もないのに窓ガラスがガタガタと鳴ったりした。僕は誰かの視線を感じていた。そいつは暗闇の中から、僕たちをジッと見つめている、そんな気がした。

 昼間になってから、そんな話を先生にしたら、案の定、笑われた。背後の足音は僕たちの足音が反響したものだし、窓ガラスが鳴ったのは僕たちが歩いたことで風が起こったからだ、と先生は物理的に分析してみせた。

 つまり、〈幽霊の正体見たり枯れ尾花〉だ。僕たちがビクビクしていたから、ごくありふれた現象を幽霊の仕業と思い込んでしまった、というわけである。そもそも、幽霊には足がないのに、どうして足音がするんだよ、と先生は一笑に付した。

 だが、あれもそうなのだろうか?
 季節外れの肝試しが終わってから、僕は好奇心から一人で現場に戻ってみた。我ながら度胸が据わっていたと思うのだが、どうしても幽霊の正体を突き止めたかったのだ。

 真っ暗な校内を歩いていると、またペタペタという足音が背後から聞こえた。すぐに振り返ったが、やはり何もいない。でも、そいつは確かにそこにいたのだ。三度目に振り向いた時、やっと、そいつの姿を確認できた。

 そいつは小さかった。あまりにも小さくて、僕たちの眼に映らなかったのだ。ペタペタという足音も、僕たちに付きまとっていたのも、そいつだった。

 僕の足元から見上げているそいつは、身長が10cmもなかった。リカちゃん人形よりも小さかった。人間のように二本足で立っているが、頭部が不自然なほど大きい。ヌメヌメとした濡れた灰色の肌と、巨大すぎる二つの眼が印象的だった。

 大声を出して逃げ出したので見たのは一瞬だけだが、小さいくせに不気味なヤツだった。思い出しただけでも背筋が寒くなるほどだ。

 ずっと後になって、あれは幽霊ではなく宇宙人ではなかったか、と思いついた。大きな眼に灰色の肌。いうまでもなく、普遍的なエイリアン,グレイの特徴である。もっとも、僕がグレイを知ったのは、ずっと後になってからだが。

 僕があの時、校内で見たものは、幽霊と宇宙人、どちらだったのだろうか?
 あの不気味な姿はしっかりと脳裏に焼きついている。
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