第4話 廃墟遊び

文字数 1,084文字


 小学生の時、友達と肝試しをした。

 場所は、定番だけど近所の廃墟。かつては何かの研究所か療養所で、人がいっぱい死んだという噂がある。親には「友達の家で天体観測をする」と嘘を吐き、こっそり現地に向かった。

 僕と三人の友達は懐中電灯を手に、廃墟の中に忍び込んだ。二人ずつに分かれて、それぞれ1階と2階を探検する。僕と相棒は1階を受け持った。

 探すものは、戦利品というか記念品。インクの切れたペン、すりガラスの欠片、何でも構わない。記念品的な価値のある〈何か〉をとってくる。小学生なりに、勇気とセンスの問われるミッションだ。

 様々なものが無造作に放置されていた。バラバラになったマネキンを見つけた時は悲鳴を上げたし、足にからみついたのが女物のかつらと知った時は小便をちびりかけた。

 それでも男のプライドを保つために、〈何か〉を探し回った。

 廃墟の中はゴミ溜めだった。家電製品や廃材が不法投棄されている。ペットボトルや弁当容器など、廃墟探検の残骸も数多い。

 目ぼしいものは、なかなか見つからなかった。後ろの友達も同じようだ。だが、男のプライドに賭けて、簡単には諦められない。

 天井から足音が聞こえてくる。2階の二人は何か見つけただろうか?

 僕は窓際に並んだキャビネットにとりかかる。錆の浮いた引き出しを順番に開けていく。すべて空っぽだったけど、最後の引き出しには鍵がかかっていた。

「おい、力を貸してくれ」相棒を呼んで、力づくで開けようとした。しばらく頑張ってみたが、結局、無駄骨に終わった。

「おーい、何か見つけたか?」笑いを含んだ声をかけられた。振り向くと、ドア口から2階担当の連中が顔を覗かせている。

 ふと違和感を覚えた。なぜか、二人ではなく、三人いるのだ。僕以外の全員がそこにいた。

 では、僕の隣にいるのは、誰なのか?

 そこから先の記憶がない。気がついたら、息を切らしてコンビニの駐車場にいた。
 友達たちによると、「おーい、何か見つけたか?」と声をかけた直後、僕は大声を上げながら、外に飛び出したらしい。

 僕の相棒はこっそり抜けて、2階の二人と合流していたという。僕を一人きりにして、驚かせるつもりだったのだ。

 だが、それは一体、いつのことなのか? 相棒と〈彼〉はいつから、すり替わっていたのか?

 あの時、手の届く近さで〈彼〉の顔を見たのだが、それは人間の顔ではなかった。眼も鼻も口もなく、真っ黒な炎のようにゆらめいていた。ただ、それでも確かに、〈彼〉の笑い声を聞いたことをしっかり覚えている。


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