第3話 心霊プリクラ

文字数 1,148文字

 僕は十年ほど前、テレビ番組制作のスタッフだった。

 ディレクターやADではない。リサーチャーといって、番組作りに関する情報収集がメインの仕事だ。番組で扱うテーマの詳細を調べたり、目玉になるネタの企画提案をしたりする。

 僕は毎週、某バラエティ番組の会議に参加していた。やらせ問題や放送倫理から、最近では心霊番組が少なくなってしまったが、当時は夏が近づいてくると、視聴率のとれる恐怖ネタの企画提案を求められた。今よりも自由度が高く、いい加減な時代だったのだ。

 心霊現象も霊の存在も信じていないが、これも仕事である。心霊サイトの代表者をはじめ、同級生やバイト仲間などの伝手をたどって、僕は心霊写真を収集した。番組で採用されれば持ち主に一定の使用料が出るせいか、思いの外、数多く集めることができた。

 その中に、一枚の心霊プリクラが混じっていた。親指の先ぐらいのシールだが、若いカップルに挟まれる形で、青白い顔が映り込んでいる。まるで死人のようだった。

 おそらく、光の加減で何かが映り込んだのだろう。だが、本物かどうかは問題ではない。ポイントは、視聴者に怖がってもらえるか、映像的にインパクトがあるか、ということに尽きる。

 幸い、心霊プリクラは、プロデューサーに気に入ってもらえた。早速、持ち主に番組での使用許可を得ることになった。プロデューサーの提示した使用料は、20万円。前例のない大盤振る舞いである。

 心霊プリクラを送ってくれたのは、僕の知人の友人の元同僚にあたる女性だった。プリクラに映っていたカップルの女性の方でもある。

 ところが、彼女と連絡がとれないのだ。何度電話をかけてもつながらない。留守番電話にもならないので、連絡のとりようがなかった。

 結局、時間切れとなり、心霊プリクラはお蔵入りとなってしまった。

 心霊特集番組の場合、霊能者の方に監修をしていただいている。プロデューサーは一応、心霊プリクラを見てもらったらしい。

「これはやばいよ。青白い顔は生霊で、カップルに強い恨みを抱いている」そう警告されたという。

 随分と時間が経ってから、持ち主の女性が電話に出られなかった理由がわかった。プリクラのカップルは、すでに亡くなっていたのだ。

 新聞記事によると、住宅街の路地で轢き逃げにあい、即死だったらしい。僕が連絡を入れた時には、彼女の携帯電話は壊れていたのだ。その後、轢き逃げ犯の男が首吊り自殺をして、その遺書から犯行が計画殺人だったことが発覚した。

 轢き逃げ犯は、殺された女性の元交際相手だった。カップルに恨みを抱いていた生霊の本体なのかどうかはわからない。

 ただ、新聞記事の顔写真はげっそりと痩せていて、まるで死人のようだった。
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