序章:パラドックスの一例

文字数 623文字

この文章は近年議論の的となっている科学論文「逆行演算の特性とその有用性」を一部抜粋し、解説したものだ。

***

 これは思考実験である。想像してほしい。
 ここにAとB、2つの装置がある。これらはそれぞれ完全に独立しており、“とある方法”で送受信される信号を除き、互いに干渉することはできない。とある方法というのは、ここでは赤外線LEDによる光通信としよう。
 装置Aは光センサとニッパーを持つ電子機械である。センサが赤外線を受信すると装置内のアクチュエータに電圧がかかり、ニッパーが閉じられる構造だ。
 いっぽう、装置Bは赤外線LEDと特殊な演算機を持つ。この演算機は時間を超越する機能を有するものとする。例えば、LEDを点灯させるという処理を“過去に送る”、というように。

 ここで装置Bの電源ケーブルを装置Aのニッパーにくわえさせたとしよう。装置Bが“LEDを5秒前に点灯させる”という命令を実行し装置Aの光センサを反応させた時、果たしてニッパーは閉じられるのだろうか。
 ニッパーが閉じられたとするなら、装置Bの電源供給が停止し、“LEDを5秒前に点灯させる”という処理は実行されない。しかしそれが実行されないのであれば、ニッパーは閉じられない。すると装置Bは稼働し続け、“LEDを5秒前に点灯させる”という処理が実行され、ニッパーが閉じられるはずである。いわゆる親殺しのパラドックス――この例で言うと厳密には

殺しのパラドックスとなるが――である。
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