不安の種

文字数 668文字

 “議論の的”はこの計算が実行された後から始まる。計算開始と同時に抽出装置のランプ、通称「TAMAランプ」が点灯したのだ。これは「Take Away My Anxiety」の略であり、ノートルダムⅠにおけるキル信号ランプにあたる。将来電源が落ちる要因がある場合にのみ点灯するランプだ。
 TAMAランプは計算の障壁となる問題を解決すると自動的に消灯する。しかし、本記事の執筆時点までランプが消灯したという情報は確認できていない。研究員は今も計算装置が停止するありとあらゆる要因を考察し排除し続けているのだ。サーバールームは電波暗室兼核シェルター内に存在し、あらゆる発電ソースによって安定的に電力が供給されている。しかしそれでもTAMAランプは消灯しない。
 この現象は将来のハードウェアの故障であると学会で発表されたが、その故障が起きる理由までは“調査中”としている。研究員が考えうるあらゆる対策を無意味にする“未知の要因”によって装置が停止することを示しているのだ。

 未知の要因とは何か、一部メディアにおいてそれを“審判の日”などと称した低俗な記事を公開し、“ノートルダムⅡの破壊”がすべての解決につながるとして騒ぎ立てた。
 ノートルダムⅡが破壊されれば、TAMAランプが示す不安(Anxiety)は人為的な破壊となり、審判の日が訪れることはなくなるからだ。
 これまでに研究室を標的とした爆破事件が3件発生したが、このような短絡的な行動での解決法は断固として否定すべきである。

***

 最後に、この論文を発表したアルル・クラポンネ教授のご冥福をお祈りします。


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