回収する天使 1
文字数 2,401文字
その夜の予選は、リムの想像を全く裏切らない、似非妖精一人勝ちだった。
十人単位での闘技場内での乱戦という、乱暴ではあるが色々な召喚師が入り交じる対戦方式は、端から見れば中々に面白い見せ物になるらしく、見物人も多く集まって闘技場の観覧スペースが全て埋まってしまう程の賑わいの中で予選は行われた。
先の受付での天使騒ぎも多少、賑わいの原因にはあったのかもしれない。
一応念の為に見た目を変えるように言ったリムに、似非妖精は人間姿の時と同じに短くしていた白銀の髪を、小さな腰にまで伸ばしてみせた。
「ロングヘアーも似合う僕!」
「せめて色を変えるとか何か出来ないの?」
「僕らの体にある色は全部、天使の属性に関わる部分だから変更出来ないんだよね。後は服を変えるくらいかな」
出来れば色彩を変えて欲しかったので思わす言ってしまったリムだが、天使がそう言うのだから無理らしい。色が一体どういう属性を表すのかは不明だが、前に見た黒髪のレインはどうやら目の前の天使とは属性が異なるらしい。白銀の髪を持つ天使は、非常に天使らしい見た目だが、それがどういう属性なのか、気にはなったがリムは尋ねなかった。
色がだめなら仕方ないので、服を変えてもらった。
その際に似非妖精が「フリフリ僕!!」と白いふわふわのドレスで女装など致したのだが、さすがにそれは丁重にお断りした。どうやら天使の中で先ほど会った妖精の事が結構尾を引いているらしいのがそれで解ったが、天使の見た目で女装されても可愛く無いし、リムは全く嬉しくない。
結局緑の、裾の長い上着に落ち着いた似非妖精は、予選で圧倒的な強さを見せた。
人間霊や獣、妖魔の類いを文字通り一蹴したのだ。
人の顔程の大きさの妖精が、その他の大きなモノ達をあっという間に一蹴していく様に、会場からは歓声ともヤジともつかない声が上がった。何しろ似非妖精が小さいので、会場からは大きなものがぽんぽん場外にすっ飛ばされている様子しか見えなかったらしい。
「愛のトルネイドキーック」
更に蹴りだす際に似非妖精がよくわからない技名を叫んでいたのだが、さすがにそれは客席までは届いていない。
こんなに強い妖精が実際に存在するのかは、リムも知らない。
解るのは、何分の一かは解らないが分身でしかない似非妖精だけでこれ程強いのであれば、本体である天使自身は予想も出来ない程強いに違いないという事くらいだ。
「勝者、112番」
「ありがとうございました」
「ラブバトルロワイヤル、ウィナー!! 愛は強し!」
数分もかからず他九体を場外負けにした事で、リムは決勝トーナメントに勝ち進んだ。一礼をして後にする彼女に、似非妖精がついてくる。天使本体の方は、さすがにここまでは同行できないので客席で待っている。
決勝は明日一日かけて行われるから、今日はもうリムの出番はない。
闘技場の予選会場スペースから出ようとしたリムが足を止めたのは、会場から異常なざわめきが聞こえたからだ。
いくつかに分かれて用意されている予選用の舞台の、リム達が居た舞台とは反対側の方で、何やら騒がしくなっている。
振り返ってそちらを見たリムは、一瞬息をのんだ。
叫ばなかったのは偶然だ。
(あ、悪魔!?)
コウモリのような黒い羽を背中から生やした青年が、舞台にいる。
そう、青年だ。
どう見ても、悪魔の。
「ねぇ、アレ、は」
「イエーイ、悪魔貴族ゾルデフォン☆」
今天使は客席で待機中なので隣に居る似非妖精に問いかければ、あっさりと答えが返ってきた。ヒューヒュー、と口笛など鳴らしながら似非妖精は平然と、その悪魔貴族を見ている。
会場が騒然としているのは当然だろう。
大悪魔が、いるのだから。
「ちょ、ちょ、ちょっと、あんたみたいなヤツが悪魔にもいたって事!?」
自分が大天使にまとわりつかれている事すら信じたくないのに、更に大悪魔が地上に召喚されているとか、俄には信じられない。顔を引き攣らせて似非妖精に尋ねるのに、似非妖精の方は顔色一つ変えずに平然とした様子で答える。
「僕とは違うんじゃない?」
「何でそう言えるのよ」
「だってゾルさんには可愛い奥さんいるもん。そりゃもう長年のアタックの末にやっと結婚して、もう見事に骨抜きで、大の恐妻家だって、天界にまで評判☆」
ペラペラと話す似非妖精の言葉は、一応、騒がしい周りには聞こえていないだろう。
悪魔貴族で恐妻家って。
色々物申したいのは山々だったが、問題はそこではない。
「じゃあなんでそんなのがここに居るの!」
「さぁー。この距離じゃ僕わかんない」
てへ、と似非妖精が長い白銀の髪を揺らして言うのに、リムは少し思案した後、一先ずはこの会場から早く出て行く事に決めた。
どういう経緯でどうなっているのかは解らないが、悪魔貴族が相手では、この似非妖精の正体があっさりと露見してしまう可能性があったからだ。天使とどちらの力が上かは不明だったが、少なくとも似非妖精は分身でしかないから、もし何かあった時に対処できない可能性が高い、とリムは判断した。
予選会場から出たリムを出迎えるような位置で、天使が待っていた。
客席に居た筈だったが、恐らく試合終了と同時に迎えにきたのだろう。
その側に駆け寄る。
「リム」
「あく、悪魔が、いたの、見た?」
天使が頷く。
「うん。ゾルデフォンいたね」
「一体どうなってるの?」
問いかけるリムに、天使は少しだけ考えた後で、笑った。
「明日には、全部解るんじゃない?」
明日は決勝トーナメントがある。今、勝ち進んだリムも、そして恐らくさっきの悪魔貴族もそこに出てくるのだろう。
似非妖精状態天使ですら反則っぽいと思っていたリムだが、よもや、更に上がいたとは。
正直、今から辞退したい。
だが賞金は欲しい。二位でもいいから。でもあの悪魔貴族とは関わりたくない。
リムは複雑な気持ちで会場を後にした。
十人単位での闘技場内での乱戦という、乱暴ではあるが色々な召喚師が入り交じる対戦方式は、端から見れば中々に面白い見せ物になるらしく、見物人も多く集まって闘技場の観覧スペースが全て埋まってしまう程の賑わいの中で予選は行われた。
先の受付での天使騒ぎも多少、賑わいの原因にはあったのかもしれない。
一応念の為に見た目を変えるように言ったリムに、似非妖精は人間姿の時と同じに短くしていた白銀の髪を、小さな腰にまで伸ばしてみせた。
「ロングヘアーも似合う僕!」
「せめて色を変えるとか何か出来ないの?」
「僕らの体にある色は全部、天使の属性に関わる部分だから変更出来ないんだよね。後は服を変えるくらいかな」
出来れば色彩を変えて欲しかったので思わす言ってしまったリムだが、天使がそう言うのだから無理らしい。色が一体どういう属性を表すのかは不明だが、前に見た黒髪のレインはどうやら目の前の天使とは属性が異なるらしい。白銀の髪を持つ天使は、非常に天使らしい見た目だが、それがどういう属性なのか、気にはなったがリムは尋ねなかった。
色がだめなら仕方ないので、服を変えてもらった。
その際に似非妖精が「フリフリ僕!!」と白いふわふわのドレスで女装など致したのだが、さすがにそれは丁重にお断りした。どうやら天使の中で先ほど会った妖精の事が結構尾を引いているらしいのがそれで解ったが、天使の見た目で女装されても可愛く無いし、リムは全く嬉しくない。
結局緑の、裾の長い上着に落ち着いた似非妖精は、予選で圧倒的な強さを見せた。
人間霊や獣、妖魔の類いを文字通り一蹴したのだ。
人の顔程の大きさの妖精が、その他の大きなモノ達をあっという間に一蹴していく様に、会場からは歓声ともヤジともつかない声が上がった。何しろ似非妖精が小さいので、会場からは大きなものがぽんぽん場外にすっ飛ばされている様子しか見えなかったらしい。
「愛のトルネイドキーック」
更に蹴りだす際に似非妖精がよくわからない技名を叫んでいたのだが、さすがにそれは客席までは届いていない。
こんなに強い妖精が実際に存在するのかは、リムも知らない。
解るのは、何分の一かは解らないが分身でしかない似非妖精だけでこれ程強いのであれば、本体である天使自身は予想も出来ない程強いに違いないという事くらいだ。
「勝者、112番」
「ありがとうございました」
「ラブバトルロワイヤル、ウィナー!! 愛は強し!」
数分もかからず他九体を場外負けにした事で、リムは決勝トーナメントに勝ち進んだ。一礼をして後にする彼女に、似非妖精がついてくる。天使本体の方は、さすがにここまでは同行できないので客席で待っている。
決勝は明日一日かけて行われるから、今日はもうリムの出番はない。
闘技場の予選会場スペースから出ようとしたリムが足を止めたのは、会場から異常なざわめきが聞こえたからだ。
いくつかに分かれて用意されている予選用の舞台の、リム達が居た舞台とは反対側の方で、何やら騒がしくなっている。
振り返ってそちらを見たリムは、一瞬息をのんだ。
叫ばなかったのは偶然だ。
(あ、悪魔!?)
コウモリのような黒い羽を背中から生やした青年が、舞台にいる。
そう、青年だ。
どう見ても、悪魔の。
「ねぇ、アレ、は」
「イエーイ、悪魔貴族ゾルデフォン☆」
今天使は客席で待機中なので隣に居る似非妖精に問いかければ、あっさりと答えが返ってきた。ヒューヒュー、と口笛など鳴らしながら似非妖精は平然と、その悪魔貴族を見ている。
会場が騒然としているのは当然だろう。
大悪魔が、いるのだから。
「ちょ、ちょ、ちょっと、あんたみたいなヤツが悪魔にもいたって事!?」
自分が大天使にまとわりつかれている事すら信じたくないのに、更に大悪魔が地上に召喚されているとか、俄には信じられない。顔を引き攣らせて似非妖精に尋ねるのに、似非妖精の方は顔色一つ変えずに平然とした様子で答える。
「僕とは違うんじゃない?」
「何でそう言えるのよ」
「だってゾルさんには可愛い奥さんいるもん。そりゃもう長年のアタックの末にやっと結婚して、もう見事に骨抜きで、大の恐妻家だって、天界にまで評判☆」
ペラペラと話す似非妖精の言葉は、一応、騒がしい周りには聞こえていないだろう。
悪魔貴族で恐妻家って。
色々物申したいのは山々だったが、問題はそこではない。
「じゃあなんでそんなのがここに居るの!」
「さぁー。この距離じゃ僕わかんない」
てへ、と似非妖精が長い白銀の髪を揺らして言うのに、リムは少し思案した後、一先ずはこの会場から早く出て行く事に決めた。
どういう経緯でどうなっているのかは解らないが、悪魔貴族が相手では、この似非妖精の正体があっさりと露見してしまう可能性があったからだ。天使とどちらの力が上かは不明だったが、少なくとも似非妖精は分身でしかないから、もし何かあった時に対処できない可能性が高い、とリムは判断した。
予選会場から出たリムを出迎えるような位置で、天使が待っていた。
客席に居た筈だったが、恐らく試合終了と同時に迎えにきたのだろう。
その側に駆け寄る。
「リム」
「あく、悪魔が、いたの、見た?」
天使が頷く。
「うん。ゾルデフォンいたね」
「一体どうなってるの?」
問いかけるリムに、天使は少しだけ考えた後で、笑った。
「明日には、全部解るんじゃない?」
明日は決勝トーナメントがある。今、勝ち進んだリムも、そして恐らくさっきの悪魔貴族もそこに出てくるのだろう。
似非妖精状態天使ですら反則っぽいと思っていたリムだが、よもや、更に上がいたとは。
正直、今から辞退したい。
だが賞金は欲しい。二位でもいいから。でもあの悪魔貴族とは関わりたくない。
リムは複雑な気持ちで会場を後にした。