星と少女と
文字数 1,131文字
黒い霧で覆われた空は、眩い閃光と共に澄み渡り、本来のあるべき姿を取り戻した。夜空に輝く星々。魔法使いの少女は地面に寝っ転がり、空に向かって手を伸ばす。
「凄いわ。今にも落ちてきそう。まるで空全体に魔法がかけられているみたい」
クロナ・トゥエルティは、ラグラークの隣国レナスで育った優秀な魔法使いだ。
クロナが産声を上げた十七年前、すでに魔物たちは大地を埋め尽くしていた。魔物は黒い瘴気を放ち、空を灰色に染めてしまう。こんなに澄んだ空を眺めること自体、クロナには初めての経験だった。
「ねぇケレン。私も風の剣術を学んでみたいの。旅をしてきて分かったのだけど、#月日__つきひ__#を増すごとに精霊の力は弱まりつつあるわ……。いずれ魔法が使えなくなる日が必ず来る。だから、これからは魔法使いも剣が扱えないといけないの」
だが、その約束は果たせぬまま──
街 は 焼 か れ
人 は 死 に ──
絶望の渦めく中、クロナの想いは天をも超えて駆け巡る。
《星空》に憧れた少女の願いは、夜空に輝く無数の星となり、《想い》を叶える流れ星となって地上へ注ぐ。
何者でもない少女は、やがて世界を救う剣を持ち、星空に込めた《願い》は、少女を守る《鎧》となるだろう……。
古き言い伝えは、街ごと焼き尽くされ、消えた──
異なる地球。それは、精霊も魔物もいない、別の末路を歩む世界。
流星群が降り注ぐ夜、高校生の笠原雪見 は、自室の窓から星空を眺めていた。
「痩せたいなぁ」
ぽつりと何気なく呟いたその時、一筋の流れ星が遠くの空に消えていった。
カーテンを閉め、愛用のメガネを外し、ベッドにダイブする。
雪見がパジャマ姿でいるのは家族の前だけだ。寝る前にはパジャマのズボンを脱いで開放的になる。この方が気持ちよく眠れるのだから仕方がない。だが、万一のことを考え、上だけはそのままパジャマだったりする。
ベッドに寝転がり、天井を見つめて思うことはいつも同じ。それは、宇宙のことだ。特別、雪見は宇宙が大好きという訳ではない。しかし、明かりを消した自室のベッドに身を沈め、ほんやり天井を見ながら想像するのだ。この向こうには空があり、そのさらに上には無数の星々が瞬いているのだと。
どこまでを
流されるがまま、雪見は世界の一部として生きている。そんな十七歳の少女が、やがて小さな点から、点と点とを繋ぐ線に変わる日が来ることを、この時はまだ知る由も無い。
煌めく無数の星々から星座が生まれたように、物語はゆっくりと、時に遠回りしながら、着実に紡ぎ作られていくのだ……。
「凄いわ。今にも落ちてきそう。まるで空全体に魔法がかけられているみたい」
クロナ・トゥエルティは、ラグラークの隣国レナスで育った優秀な魔法使いだ。
クロナが産声を上げた十七年前、すでに魔物たちは大地を埋め尽くしていた。魔物は黒い瘴気を放ち、空を灰色に染めてしまう。こんなに澄んだ空を眺めること自体、クロナには初めての経験だった。
「ねぇケレン。私も風の剣術を学んでみたいの。旅をしてきて分かったのだけど、#月日__つきひ__#を増すごとに精霊の力は弱まりつつあるわ……。いずれ魔法が使えなくなる日が必ず来る。だから、これからは魔法使いも剣が扱えないといけないの」
だが、その約束は果たせぬまま──
街 は 焼 か れ
人 は 死 に ──
絶望の渦めく中、クロナの想いは天をも超えて駆け巡る。
《星空》に憧れた少女の願いは、夜空に輝く無数の星となり、《想い》を叶える流れ星となって地上へ注ぐ。
何者でもない少女は、やがて世界を救う剣を持ち、星空に込めた《願い》は、少女を守る《鎧》となるだろう……。
古き言い伝えは、街ごと焼き尽くされ、消えた──
異なる地球。それは、精霊も魔物もいない、別の末路を歩む世界。
流星群が降り注ぐ夜、高校生の
「痩せたいなぁ」
ぽつりと何気なく呟いたその時、一筋の流れ星が遠くの空に消えていった。
カーテンを閉め、愛用のメガネを外し、ベッドにダイブする。
雪見がパジャマ姿でいるのは家族の前だけだ。寝る前にはパジャマのズボンを脱いで開放的になる。この方が気持ちよく眠れるのだから仕方がない。だが、万一のことを考え、上だけはそのままパジャマだったりする。
ベッドに寝転がり、天井を見つめて思うことはいつも同じ。それは、宇宙のことだ。特別、雪見は宇宙が大好きという訳ではない。しかし、明かりを消した自室のベッドに身を沈め、ほんやり天井を見ながら想像するのだ。この向こうには空があり、そのさらに上には無数の星々が瞬いているのだと。
どこまでを
世界
と定義するかは難しい。だが、雪見にとっての世界とは宇宙全体を指している。この広すぎる世界で、雪見は点にも満たない小さな命なのだ。流されるがまま、雪見は世界の一部として生きている。そんな十七歳の少女が、やがて小さな点から、点と点とを繋ぐ線に変わる日が来ることを、この時はまだ知る由も無い。
煌めく無数の星々から星座が生まれたように、物語はゆっくりと、時に遠回りしながら、着実に紡ぎ作られていくのだ……。