第1話 望まない起床

文字数 939文字

 うるせぇ
 遠くから絶え間なく聞こえてくるそのけたたましい音によって俺の視界は開けた。
 いつもの天井が目に入る。

 そこに至りああ、俺は自分は目が覚めたんだなとゆっくりと、そして毎秒ごとに急速に実感していく。

 そして

 うるせぇ!!!
 意識が覚醒してくると自分を目覚めさせたけたたましい音が気になってしょうがなくなる。
 俺は右手、左手で辺りを探る。

 音の主の息の根を止めるためだ。

 どこだ

 スマホはどこだ
 大声で叫び続けているお前は一体どこにいる!

 あった。数秒の捜索の後、俺は問題のスマホを左手で捕らえた。そして画面を見つめる。
 画面には「5:55」という時刻表示と「アラーム」という無機質な文字が表示されていた。俺は右手で画面をスワイプさせてアラームを止めることに成功した。すると今の今まで鳴り続いていた騒音は綺麗に消えて辺りには静寂が訪れた。

 少しの間そのままボーッとしていたが俺はベッドに横になったまま上半身だけを(にわか)に起こした。

―5時55分だって?―

 慌てて先ほど沈黙させたばかりのスマホを再び手に取りロックを解除して画面を確認する

―5:59―

 そこにはしっかりとそう表示されていた。その画面を確認した俺は大きな舌打ちをした。
 最悪だ、いつものアラームをオフにするのをすっかり忘れていたのだ。5時55分はいつも俺が仕事のある日に起きる時間だ。

 しかし、今日は休日なのだ。
 まかり間違っても5時55分に起きる必要などないのだ。

 俺は眠りに落ちる前の最後の記憶の足跡を辿る。昨日最後にこの目で見た時刻は2時45分ごろだったはずだ。それからほどなく俺の意識は途絶えた。それは昨日ではなく今日、それもほんの数時間前だ。

 最悪だ。

 3時間しか眠れていない。
 もちろん俺はショートスリーパーではない。いつだって最低6時間は寝たいと思ってるしなんなら今日のような休日は8~10時間は寝たいと思っている。

 となると俺に与えられた選択肢は一つしかない。

 もう一度寝よう。
 少なくとも10時前くらいまでは寝よう。

 そう固く決心した俺は起こしたての上半身を再び倒してほんの数分前と同じ体勢になり目を閉じた。
 休日の二度寝、三度寝ほど幸運なことはないじゃないか、そう言い聞かせて俺は再び目を閉じた。
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