第3話 白湯までの10分間

文字数 801文字

「冷てぇ!」
 洗面所で一人俺は悲鳴をあげた。思いっきり冷水で顔を洗ってしまったのだ。いつもならお湯に変わるまで待っているのに今日は蛇口を捻ってそのままノータイムで顔を洗ってしまった。
どうにも頭の回転が良くない。短い睡眠時間(3時間)で起きて活動開始したので調子が出ない。今の俺は無理矢理起動させた型落ちの電化製品のようだ。

 結局冷水の後でお湯で顔を洗うという魚の身を締める調理のような工程を経て俺は洗面所を後にした。そして今はキッチンの前に一人佇んでいる。

 えーと次は何をするんだっけ……

 働かない頭をフル回転させて考える。
 …白湯(さゆ)だ。俺は毎日朝一番で白湯を飲むようにしている。身体が温まるからだ。ということは…お湯を沸かさなきゃいけないな。
 俺は薬缶(やかん)に水を入れそれを火にかけた。さて、コイツが沸騰するまでの約10分か…。そのまま薬缶とにらめっこするのもいいがそうするには今日はいささか寒すぎるので俺は次のアクションを起こすことにした。
 
 再び洗面所に戻った俺は洗濯カゴに無造作に突っ込まれていた洗濯待ちの残骸たち―昨日仕事で着たシャツやら下着や靴下やらーを洗濯機に突っ込みスイッチを押した。
 そしてキッチンに戻り念のため薬缶の様子を確認したあと(まだまだ沸騰していなかった)で、今度は洗濯したまま放置されていたシャツやハンカチにアイロンをかけることにした。
 そしてどれくらいの時間が経っただろう。ハンカチを3枚、シャツを2枚アイロンし終えるくらいの時間が経った後、そのタイミングで薬缶が悲鳴をあげたので俺はアイロン掛けを切り上げて立ち上がり火を止めて薬缶から必要な分だけコップに白湯を注ぎ残りをポットに注いだ。

 よしよし、起きたての数分こそ頭が働かなくてワタワタしたがここ数分の俺は落ち着いていつもと同じ冷静に行動が出来ているぞ。
 そう手応えを感じながら俺は湯気の立つマグカップの取っ手に指をかけた。
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