補遺

文字数 622文字

 なお、これは余談である。
 現代において、アーリア人というのは、印欧語族のうち、古代のうちに欧州ではなく中央アジアへと向かった集団とみなされる。その集団も更に細かく別れていき、現代で言うインド、イラン、中央アジアの都市部、草原地帯などに広く散らばっていった。ナチズムのいう「アーリア人」像というのは、そのように広い地域に拡散した同じ言葉を話す民族の存在をもって「広い地域を支配下においたひとつの民族が存在した」と曲解した上で、それをゲルマン民族と祖を同じくする高貴な種族として逍遥する、何重かにねじれた理想像であるというのは言うまでもないが──
 それでは、古代に中央アジアへと進出し、定住した印欧語族だけがアーリア人であるとして、その末裔が欧州に存在しないのか、といえば、そういうことはないようだ。あくまで一説ではあるが、欧州にもアーリア人の末裔とみなしうる民族はただひとつだけ存在している。ただし、それはアーリア人を自称したドイツ人ではない。
 一説によればそれは、北インドから欧州に流れ込むという古代のアーリア人とは逆の動きをし、欧州において少数民族として迫害されてきた民族──ジプシー、ツィゴイネル、ヒターノ、その他様々な名前で呼ばれ、現在ではおよそ総称してロマと呼ばれる民族であるという。

〈ルントラント物語 終〉

参考文献 青木健『ゾロアスター教』
     青木健『アーリア人』
     ローゼンベルク『二十世紀の神話』
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