第3話

文字数 717文字

 会いたい。
 どうしても。

 その思いが募り、皇帝は都に、高さ5メートルの像を建造させた。この騎士は、全裸の剣闘士風だった。逞しい肉体美を晒すその姿は、皇帝の最大の賛辞だった。
 行き交う人々には受け入れがたいものだったのだけれども。彫刻家でさえ忌避感を示した。
 けれど皇帝は、全裸にこだわった。
 今やっと気がついた。
 彼は騎士を愛していた。
 彼もまた、皇帝を愛していた筈だ。騎士の献身とは、つまりそういうことだ。

 ならば騎士は、己の全てをさらけ出さなければならなかった。もう二度と、二人の間に疑惑が生じないように。
 人々の騎士への尊敬が、皇帝を裏切ることのないように。

 時を置かず皇帝は、同じく首都に、自らの像を造らせた。右手に剣を持ち、左手に自由の女神像を乗せた像は、貫頭着姿だった。
 顔は皇帝らしく鹿爪らしかったが、膝上丈のワンピース(one piece)姿はセクシーといえないこともない。

 騎士像も皇帝の像も、古き良き時代の理想を体現していた。今時、貫頭着を纏っただけで街を歩く人間などいない。全裸など言語道断である。
 それでも皇帝は、この姿に拘った。さすがに自分の像が全裸というのは受け入れがたかったが、騎士の前に、いつでも真実の自分をさらけ出せるようにしていたかった。
 騎士の差し出した真実の献身と、皇帝の与えた心からの信頼と。
 その間に、布切れ一枚の邪魔もあってはならないのだ。

 皇帝の像が建立された公園は、騎士の像のある広場のすぐ近くだった。直接顔を合わせてはいないが、呼べば即座に駆けつけることのできる距離だ。
 出来上がった二つの像が首都を睥睨し、皇帝は満足だった。
 若き日の二人の夢が結実して打ち樹てられた自らの帝国を、彼は誇らしく思った。







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登場人物紹介

皇帝

軍のクーデターを起こし、成り上がった

画像:wiki

騎士

後に皇帝となる男に絶対の忠誠を誓い、戦死した

画像:wiki

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